小型スターリングエンジンの設計手法と性能予測法に関する研究

簡易性能予測法の提案


簡易性能予測法の提案

 今までに得られてきた実験研究に基づいて、エンジン設計初期の段階で用いる性能予測法を提案します。
 エンジン初期設計では、軸出力を見積もることが必要となります。そのような観点から、従来の整理法としてビール数あるいはウエスト数を用いた手法が提案されています。これらの手法によって、軸出力を概ね予測することができますが、これらの手法は、最高軸出力が得られるエンジン回転数を想定する必要があることなその問題があります。


無次元量について

 ここでは、より実用的な性能予測法を目指して、エンジン回転数nと軸出力Lsとの関係を見いだすことに着目します。今までの実験結果及びシミュレーション計算によって、スターリングエンジンの軸出力がどのような物理量に影響を受けるかが、概ね明らかとなりました。様々な検討を行った後、エンジンの性能は、軸仕事、平均圧力、行程容積、ガス定数、ガス温度、動粘性係数、回転数で表されるものと考えて、次元解析を行いました。そして、次式で定義する、無次元回転数n*と無次元軸仕事wS*を用いて実測値を整理することとしました。


 一方、エンジンの運転条件を表す無次元量として、許容圧力比P*及び無次元温度T*を定義します。




無次元回転数と無次元軸仕事との関係

 右図は、無次元回転数n*と無次元軸仕事wS*との関係を整理した一例です。これより、実測値は無次元回転数n*と無次元軸仕事wS*とでよく整理できることがわかりました。


性能予測法の提案

 この結果に基づいて、エンジン設計初期の段階で性能予測を行うための手法を導出するため、次式で定義される無次元軸仕事WS*、無次元軸出力LS*及び無次元エンジン仕様S*を導入します。



 右図は、エンジン形式、作動温度が異なる5種類のエンジンにおける、無次元回転数n*と無次元軸出力Ls*との関係を示しています。供試エンジンAは、本研究で開発した小型エンジンであり、供試エンジンBは、供試エンジンAとほぼ同程度の温度・出力レベルで作動する、α形エンジンです。供試エンジンCは、出力が2 kW程度のβ形の高温度差エンジン、供試エンジンDは、出力が1 kW程度のα形の低温度差エンジン、供試エンジンEは、出力が300 W程度のγ形の低温度差エンジンです。
 これより、それぞれのエンジンにおいて、実測値はよくまとまっていることがわかります。そして、n*に対してLs*の最大値が存在するということがわかります。また、無次元エンジン仕様S*に応じて、最大の無次元軸出力Lsmax*及びその時の無次元回転数nmax*を概ね推測できることがわかります。
 次に、国の内外で開発されている高出力エンジンの実測値を本手法によって整理します。右図は、それぞれのエンジンにおける、最大軸出力が得られた際の無次元回転数nmax*と無次元軸出力Lsmax*との関係を示しています。これより、最大軸出力とその時のエンジン回転数との関係は、最大無次元軸出力Lsmax*と無次元回転数nmax*とで整理することができ、その関係は、次式によって求められることがわかります。


 右図は、それぞれのエンジンにおける、無次元エンジン仕様S*と最大軸出力が得られた際の無次元回転数nmax*との関係を示しています。これより、無次元回転数nmax*と無次元エンジン仕様S*との関係は、次式によって求められることがわかります。



設計フローチャート

 右図は、エンジン設計初期の段階で性能予測を行うためのフローチャートです。まず、概ねのエンジン仕様を設定し、そのエンジンの無次元エンジン仕様S*を算出します。そこで、先ほどの実験式を用いることで、最大軸出力LSmax並びにその時のエンジン回転数Nmaxを算出できます。その結果が設計条件を満たしていれば、詳細設計へと進んでいきます。
 すなわち、本研究で提案する、エンジン設計初期の段階における性能予測法は、与えられたエンジンの主要目より、エンジンの最大軸出力並びにその時のエンジン回転数を容易に推測することができます。そして、無次元エンジン仕様S*を導入することによって、作動ガスの相違による影響も評価できる等の特徴があります。


まとめ

(1) 前章までの解析結果及び実験結果を踏まえて、実測値の整理法を提案した。
(2) その整理法に基づき、エンジンの設計初期の段階において、軸出力及びその時のエンジン回転数を予測する手法を提案した。
(3) 本手法は、無次元量n*、LS*及びS*を用いることにより、様々な形式のエンジンに適応できる可能性があることを確認した。


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