お知らせ
第19回 海技研講演会を東京(所内講堂)で開催
「海事産業のデジタル化」 現状と可能性探る
欧州や他業種の変革事例紹介、産業連携強化で一歩先へ
冒頭、宇都所長による開会挨拶後、基調講演として、国土交通省海事局長の大坪新一郎氏に「海事産業将来像について」と題して、行政の取り組みをご説明いただきました。大坪局長は、国内造船業界における構造の変遷と技術開発力の停滞について指摘、IoTを駆使した欧州の舶用技術メーカー等による巨大システムインテグレーターが海運・造船会社からの基本設計や調達を行なう産業構造が出現している現状を説明し、産業分野横断的な取り組みが国内産業の活性化の鍵となることを示唆しました。
引き続き、外部講師として招聘したDNV-GLのAlex Lee氏、富士通の藤本拓氏、富士通研究所の渡部勇氏の3名による特別講演を実施。DNV-GL日本統括マネージャーであるLee氏は、欧州(ドイツ)におけるインダストリー4.0の事例をもとに経済成長メカニズムを視野に置いたデジタル化による産業革新に向け、IT運用管理をバイモーダルで捉える必要性を指摘しました。一方、富士通の藤本氏は、操船中等における、リスク検知のための従来の手法が抱える問題とその解決に向けた考え方を示唆、また、渡部氏は、最近のAIの動向について解説し、「医療や運航現場等、目的に応じた説明可能なAIの選定こそが重要」と強調しました。
クラウド活用で設計や造船建造までデータを一元化
後半の研究講演では、はじめに、谷澤克治研究統括監が、「海技研が進めるデジタル化の取り組み」について説明。弊所が進めているAI、知識データシステム、ビックデータ技術などの成果を円滑に実装させるため、「クラウドの活用を進め、クラウドを通して社会に適用していく」考えを示唆しました。また、船舶の設計、建造技術のデジタル革命に関して、欧州で導入が進んでいる、船舶の開発・基本設計から生産まで首尾一貫したデジタルシステムの重要性を強調。「日本でも欧州のような取り組みを進めて、生産性と効率性の向上が必要」としたうえで、造船支援に向けて、同システムの構築に着手していることについても言及しました。引き続き、坂本信晶・流体性能評価系主任研究員が、実船船尾流場の直接推定について解説。また、一ノ瀬康雄・流体設計系主任研究員はデジタル化にともなう船舶性能解析技術の現況と将来の見通しを紹介。最後に、柚井智洋・海洋リスク評価系主任研究員が、システムズアプローチによる海事産業の意思決定支援について説明しました。講演最後は、福戸淳司特別研究主幹が閉会の挨拶として研究講演を総括、多数の方々から質問が上がり、進展する海事産業のデジタル化に対する関心の高さがうかがえました。
「燃料」テーマにランチョンセミナー開催、公開実験や施設見学も
一方、今回初の試みとして、講演会に合わせてランチョンセミナーを開催。弊所、環境・動力系の平田宏一系長が、低硫黄燃料油による実船トライアルの結果を紹介しました。業界で注目を集める燃料油のテーマとあって、56名の参加者らは皆、熱心に聞き入っていました。また、特別講演終了後には、弊所の施設や研究の現場の認知度向上目指し、講演会参加者を対象に「深層学習による他船船影検出・位置推定システム」の公開実験を行い、105名にご参加いただきました。合わせて、変動風水洞、AUV、深海水槽、海洋構造物試験水槽、操船リスクシミュレータ、小型スクラバなど主要施設の特別公開も実施しました。
2019講演会 フォトギャラリー