DATA SYSTEM RESEARCH GROUP
東日本大震災では、東京都内でも震度5強の揺れを観測し、鉄道路線がサービスを停止したため、かねてから懸念されていた帰宅困難者の発生が現実のものとなりました。帰宅困難者については、一斉帰宅の回避とその後の徒歩帰宅支援のための体制が準備されていますが、鉄道の運行停止期間が長引けば、帰宅だけでなく通勤・通学にも支障を来す恐れがあります。ここでは、水上バスやバスによる代替輸送のための路線網の構築法に関する基礎的な研究を紹介します。
路線網構築問題に対して、1つの路線を1つのエージェントとしたマルチエージェントシステム(自律的に行動する複数のエージェントで構成されるシステム。以下、MASと略します。)を応用しました。各路線エージェント(以下、路線Ag)は路線の延長や縮小、経路やバス台数の変更などを自ら行い、路線網の利用者を他の路線Agとの間で奪いあって進化します。答えとなる路線網は、この進化過程で淘汰をまぬがれた路線Agの集合で構成されます。提案者は、この手法をベンチマーク問題に応用して、最良の路線網の出力に成功し(*1)、また、図1に示すような東京を流れる河川上に水上バス路線網を構築しました。
図1 河川&水上バス路線網の応用例
また、発災時刻と鉄道路線網の途絶区間や途絶路線を入力すると、帰宅困難者数の分布を出力するシステムの開発も行いました。図2には、その解析結果の一例を示します。(図2で、濃い色が帰宅困難者数が多いことを意味しています。)
図2 帰宅困難者の発地分布と目的地分布
さらに、開発したMASを改良し、2種類の輸送機関が混在する条件で路線網を構築することができるようにしました。この応用として、図2の移動需要を入力し、バスと水上バスが混在する輸送網が図3のように生成されました。
図3 首都圏、異なるモード(バスと水上バス)が混在した大規模路線網の解析例(各路線を垂直方向に異なる色で積み重ねて表示)
ここでは、帰宅困難者の輸送に関する問題を、路線網構築問題としてとらえ、研究開発した手法について概略を説明しました。首都圏では、首都直下型地震がもたらす大規模な災害が懸念されています。開発したツールが、防災施策などに対し有効な情報を提供できればと考えています。