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環境調和型高性能ハイブリッド熱交換器による高効率舶用排熱回収システムの研究開発

 エンジンサイドから船舶の省エネを考えたとき、舶で用いられているディーゼルエンジンの熱効率がすでに十分高いと言うことがネックになってきます。つまり、エンジンそのものの効率を改善するのは非常に難しいと言うことです。そこで別の考え方としてあがってくるのが、排熱回収という方法です。エンジンで燃やされた燃料の持つエネルギーの全てがエンジンを回すために使われるわけではありません。数100度の排気ガスの形で捨てられています。その捨てられている熱を有効活用しようというのが排熱回収の考え方です。排熱回収は、1)熱を回収する、2)熱を利用して動力を生成する、3)熱として利用し尽くす、といった手順になります。例えば、排気ガスから「熱交換器」を使用して熱を奪い蒸気を発生して蒸気タービンを回して発電する、といった方法が考えられます。
 舶用の排熱回収、特にエンジン排ガスからの排熱回収を考えたとき、燃料性状の悪さに伴う排ガス性状の悪さが問題となります。例えば排ガスに含まれる煤は熱交換器に付着すると熱交換性能を低下させます。また、重油に含まれる硫黄分(S分)は燃やされて排気ガス中で水蒸気と結びつくと硫酸になり、熱交換器を腐食させます。
そこで、排熱回収の入り口、すなわち熱回収に使用される熱交換器を、このような問題から解消しようというのがこの研究です。
 具体的には、循環流動層と呼ばれる装置を利用することを考えています。この装置は、ガスと粒子が混ざり合って装置の中を流れることで、ガスの性状を変化させたりガスから熱を回収したりできます。ここでは粒子として脱硫剤を考えています。図1(左)に循環流動層の試験装置の写真を示します。分散板と呼ばれる穴の開いた板からガスが流れ込みます。この実験装置では空気を流して粒子の動きなどを調べていますが、実際の熱交換装置ではエンジン排ガスが流れ込みます。流れ込んだガスは粒子と混ざり合いながらライザー部と呼ばれる流路を上昇します。このとき、粒子として脱硫剤を投入しておけば脱硫が行われますし、粒子は排ガスの熱も奪います。この流れは、サイクロンと呼ばれる固気分離装置に導かれ、ガスは外部に、粒子はダウンカマーと呼ばれる流路を通って下に落ちていき、バルブを経由して再びライザー部に戻っていきます。粒子がこのように装置内部を循環するため「循環流動層」と呼ばれます。ちなみに粒子に流体を送り込むとまるで全体が流体のように流動します。そして、その現象は「流動化」と呼ばれますが、「流動層」はその流動化現象を利用した装置です。流動層そのものは化学工学の分野で広く利用されていますが、船の上で利用されたことはほとんどありません。そこで、この研究では船上での利用を考え、船の動揺が流動層の挙動にどのような影響を与えるのかを調べています。図1(右)は船体動揺を模擬できる動揺台に試験装置を搭載した写真です。また、流動層試験装置を利用した排熱回収システムの性能解析(図2、システム概念図)や、流動層内部のCFD解析等も実施しています。

 (この研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発」により実施されています)


【研究成果】
動揺試験の結果、ライザー部内の流れ、特に壁近くのダウンフローと呼ばれる現象に動揺が大きな影響を与えることや、それにより、装置の圧力損失が増えること等の新しい知見を得ています。
今後、実際にエンジン排ガスを利用した排熱回収実験を行う予定です。