• 拡大
  • 標準サイズ
  • 縮小
  • 文字サイズ
舶用ディーゼル機関におけるPM計測

  ディーゼル機関排気中の粒子状物質(PM)は有害であり、自動車ではすでに規制されています。したがって、トラックが黒煙を吐き出している風景は、最近は見かけません。(黒煙はPMの一部です。)船では、燃料の質を上げて(硫黄分を減らして)PM排出を削減する規制が行われています。なぜなら、自動車と燃料が大きく違うからです。

  薄黄色が自動車で使う軽油です。黒い2本が、船舶用燃料の重油です。C重油にいたっては、逆さまにしても落ちてきません。(軽油に比べると安価です。加熱して使います。) このような質が悪い燃料でも動く舶用ディーゼル機関はすばらしいものです。
  現在、船ではPM計測を行わなければならない規制はありません。(燃料の規制だけです。)しかし、排出実態を調査するためにはPM計測が必要となります。 PM計測はJISB8808に規定されており、自動車用のPM計測法と多くの原理を共有しています。しかし、前出の質の悪い燃料のため、舶用ディーゼル機関から排出されるPMには、計測装置の内壁などに付着しやすい特性があります。この対策のため、日本マリンエンジニアリング学会“舶用機関のPM排出実態に関する研究委員会”より,“舶用ディーゼル機関起源のPM計測に関するガイドライン(JIME-PM-01-0001-2010)”が発行されています。当所においても、JISB8808準拠の装置にガイドラインで示された改良を施して計測しています。当所で使用しているPMを捕集するための装置のポンチ絵(分流希釈システム)を示しました。複雑な装置です。さらに、複雑な計測条件が規定されています。PMを捕集したフィルタはマイクロ天秤で計量します。計量するためにも条件があり、恒温恒湿槽を使います。

  改良を施した装置を使用して、舶用ディーゼル実験機関で計測しました。(排気量は、国産最上級車の10倍あります。)燃料中の硫黄分に関係して計測事例を示しました。 燃料中の硫黄分が増えると、サルフェート(硫酸)とこれの結合水が主要成分となります。 さて、ここで一つ問題があります。装置を改良しましたが、計測装置の内壁などにPMがつかなくなった訳ではありません。ではどこまで改良すればいいのでしょうか? 自動車では、排気を全量使って計測する方法がディファクトスタンダード(基準の方法)とされています。この装置の結果が基準となります。舶用ディーゼル機関は排気量が多いため、この方法を使うことができず、排気の一部を採取して計測する方法を使っています。(上で示した装置のポンチ絵です。)したがって、舶用の分野では、ディファクトスタンダードが確立されていない状態です。

  今後さらに広く計測を進めていくには、基準の方法やPM計測結果を保証する方法に関する議論が必要となります。当所でのPMに関係した研究報告を以下にまとめました。国内では当所のほか、水産大学校、東京海洋大学等でPM計測に関する研究が行われています。


基準の方法やPM計測結果を保証する方法に関する研究:
・大橋厚人、徐 芝徳、佐々木 秀次、塚本達郎、PM濃度による分流希釈システムの比較,日本マリンエンジニアリング学会誌第49巻第1号(2014)、126-131。
・大橋厚人、徐 芝徳、全流希釈法に代わるPM計測の保証方法、平成25年(第13回)海上技術安全研究所研究発表会講演集、137-144。
・大橋厚人、井亀 優、石村惠以子、希釈トンネル内の沈着損失が粒子状物質計測に及ぼす影響について、日本マリンエンジニアリング学会誌第47巻第1号(2012)、97-104。
・大橋厚人、井亀優、石村惠以子、西尾澄人、高木正英、徐芝徳、排気希釈システム内のサルフェート損失の定量評価、日本マリンエンジニアリング学会誌第45巻第3号(2010)、127-132。

PMに関連した研究:
・大橋厚人、希釈排気中の炭化水素等に関する計測事例、第84回(平成26年)マリンエンジニアリング学術講演会、平成26年11月19日-11月21日、海峡メッセ下関、日本マリンエンジニアリング学会、15-16.
・岸武行、大橋厚人、柳東勲、高橋千織、安藤裕友、舶用エンジンから排出されるブラックカーボン(BC)の計測-PM組成分析と光吸収計測による評価法の評価-、平成26年度(第14回)独立行政法人海上技術安全研究所研究発表会講演集、150-157。
・井亀優、大橋厚人、石村惠以子、西尾澄人、徐 芝徳、高木正英、羽鳥和夫、高橋千織、宮田 修、今井康之、舶用ディーゼル機関から排出される粒子状物質(PM)の計測とその排出特性、海上技術安全研究所報告第11巻第2号(平成23年度)基調論文、21-40。
・徐 芝徳、石村惠以子,大橋厚人,井亀 優,西尾澄人、舶用ディーゼル機関排気のSOFとTHC濃度の関係、日本マリンエンジニアリング学会誌第46巻第3号(2011)、161-166。
・石村惠以子、井亀優、大橋厚人、西尾澄人、高木正英、熱重量分析法によるPM成分(SOF)の由来の検討、日本マリンエンジニアリング学会誌第45巻第4号(2010)、147-150。