洋上に存在する風力、波力、海流・潮流、海洋温度差等の洋上再生可能エネルギーの利活用の実現に向けた研究開発が各方面で積極的に展開されています。
海上技術安全研究所では、洋上再生可能エネルギーに係る研究開発支援を目的に、気象・海象データベース(主に、波浪、海上風、海流)を用いて洋上再生可能エネルギーのポテンシャル評価、発電デバイス設計時に参考となる極値海象条件、海象の発現頻度表の構築等に取り組んでいます。ここでは、ポテンシャル評価と設計用の極値海象条件に関する研究をご紹介します。
[洋上再生可能エネルギーのポテンシャル評価]
海上技術安全研究所は、船舶の安全な航行を支援する目的で、過去の気象・海象データ(海上風、波浪)を収集、独自に統計処理を行い日本近海の波と風データベースとして発信して参りました 1)。このデータを拡充し、データ収集期間を20年間とし(1994-2014)、新たに海流データも加えて統計処理を行うことで、日本の沿岸域における洋上風力、波エネルギーのポテンシャル評価を行っています(図1)。
図1で紹介したエネルギーポテンシャルは、海域毎にポテンシャルの多寡を評価することはできますが、エネルギーポテンシャルの高い海域でも実際には全てのエネルギーを回収することは出来ません。そこで、発電デバイスの出力特性や稼働条件を仮定することで、理想的にはどの程度の設備利用率(以下、理論設備利用率)2)-4)が得られるか評価を行いました(図2)。また、日本沿岸の気海象条件は、季節毎に変化するので、月毎に理論設備利用率を算出し、海域毎にどの程度の変動量が見込まれるかも評価をしています。
図1 風力と波力エネルギーポテンシャルマップ(左:風力、右:波力)
図2 理論設備利用率マップ(左:風力、右:波力、下:海流)
図3 房総半島沖での理論設備利用率の月別変化
[発電デバイス設計用の極値海象条件]
洋上再生可能エネルギーを利用する発電デバイスは、特定の海域で設置・運用されるため、発電デバイスの安全性評価に用いる気海象条件は、設置場所毎に設定されるべきものです。ところが、発電デバイスの開発段階では設置場所の選定に至っていない場合もあります。この様な場合にも、例えば製品としての型式認証等のため安全性照査等を受ける必要があり、何らかの形で設計用の気海象条件を設定する必要があります。
海上技術安全研究所では、この様な目的に対して、日本沿岸域を代表し且つ十分に安全側の検討が行える気海象条件を設定するための参考情報として、極値海象条件の検討 5)を進めています(図4)。
図4 30km外周ライン上での有義波高の50年再現期待値と平均値の分布
(上:太平洋側、下:日本海側)
[参考文献]
1) | 辻本勝, 石田茂資:日本近海の波と風の統計的性質, 日本船舶海洋工学会論文集, 第2号, 2005, pp.19-27. |
2) | 谷口友基, 石田茂資, 井上俊司, 高田篤志:海洋エネルギーポテンシャルの新しい評価法, 第24回海洋工学シンポジウム, 2014. |
3) | Taniguchi T., Ishida S., Inoue S. and Takada A., "EVALUATIONS OF OCEAN RENEWABLE ENERGY POTENTIAL BY THE THEORETICAL CAPACITY FACTOR AROUND JAPAN", Grand RENEWABLE ENERGY 2014. |
4) | 谷口友基, 石田茂資, 藤原敏文, 井上俊司:”20年間の気海象データによる海洋再生可能エネルギーポテンシャルの評価”, 日本船舶海洋工学会講演会論文集, 第19号, 2014. |
5) | 谷口友基, 石田茂資, 藤原敏文, 井上俊司:”海洋再生可能エネルギー発電装置の安全性・性能評価に用いる標準海象の検討”, 日本船舶海洋工学会講演会論文集, 第19号, 2014. |