船舶技術研究所ニュース № 5

SRI NEWS

施設紹介シリーズ


氷海技術部 氷海船舶試験水槽

 見渡す限りの氷の海、その氷を割りながら進む砕氷船、そんな映像を見たこ とがあるでしょうか。こうした氷海を航行するための船舶や、氷海用の海洋構造 物の研究を行うための水槽が氷海船舶試験水槽です。実際の氷海を模擬するため に、プールが冷凍庫の中にあると考えてみて下さい。 
 水槽は長さ35m、幅6m、水深が1.8mあり、水槽自体は柱で支えられています 。これにより、底面と側面の観測窓から氷が割れる様子などを観察できるととも に、地面の熱が直接水槽に伝わらないようになっています。模型船を引っ張って 走るための電車(曳引車)が、水槽をまたぐようにして取り付けてあり、氷を割 って船が進むために必要な力などを計測できます。天井にはたくさんのクーラー があり、氷を張るときには、室内の気温をマイナス30度まで冷やすことができま す。1981年の完成で、日本一大きな氷海船舶試験水槽です。 
 こうした氷水槽の実験で使う氷は、厚さだけでなく、強さなどの性質も模型 の尺度に合わせて変化させる必要があります。このため、世界中の氷水槽では水 の中に塩や尿素といった添加物を入れて氷を柔らかくする工夫をするのですが、 現在船研では添加物としてプロピレングリコールを使用しています。 
 氷の厚さにもよりますが、実験に使う氷を作るのに、丸1日かかります。零 下の室内では、夏でも防寒着が手放せません。こうした氷水槽独特の効率の悪さ を補うため、建設されて以来、真夏の点検時期以外フル稼働してきました。海上 保安庁の砕氷型巡視船「そうや」や、現在建造中の中型砕氷巡視船「なとり」の 設計には、この水槽での実験結果が役立てられています。また、最近では北極海 やオホーツク海をを航行する船舶や氷海用プロペラといった船の研究のほか、氷 海用海洋構造物、氷のはった港への波の伝播といった研究等にも利用されていま す。

写真1 砕氷船の曳航試験真っ赤な砕氷船の模型を曳航台車で引っ張って氷を
割りながら、抵抗を測っている。氷が割りやすく、抵抗が少ない船型を研究す る。

写真2 模型氷の強度計測模型氷板を
作るごとに、氷の強度・弾性率を計測する。