船舶技術研究所ニュース № 6

SRI NEWS


 近年、人との調和を考えたウォーターフロントの開発の重要性が叫ばれてい ます。当研究所では、早くから大型の浮体型海洋構造物の利用を目指して、その 機能や安全性を評価するための研究を実施し、実験用構造物ポセイドン号を使用 した大規模な実海域実験なども行ってきました。最近、さらに大型の浮体構造物 を利用する計画が進められているということなので、海洋開発工学部の研究グル ープのみなさんに、その研究内容などについて語ってもらいました。 参加者は 、大松 重雄室長、大川 豊室長、渡辺 喜保室長、矢後 清和主任研究官、安藤 裕友研究官です。

 Q:まず、大型の浮体構造物とはどのようなものか教えてください。  

 海洋資源を利用するために、海の上に構造物をつくる必要がありました。た とえば、海底油田を掘るための石油掘削リグと呼ばれるものです。浅い海では、 海底に足をおろしたものでよかったのですが、深い海では、海面に浮かべること が必要になります。構造物の規模も大型化してきます。この大型の海面に浮かぶ 構造物の開発を行うために、波、風、潮流からどんな影響を受けるか、またその 安全を確保するためにどうすればよいかを研究することになりました。(大松)

 Q:最近、従来より、さらに大型の浮体構造物の開発計画があるとききまし たが。  
 従来の、大型浮体構造物は、いわば単独のビルディングのようなものでした が、いま計画されているものは、海上空港や、海上都市等、構造物が組み合わさ った広い面積をもつ浮体構造物です。(渡辺)

写真1 大型浮体構造物の模型を前にした研究グループのメンバーです。
左から、大川前室長(現在は、メガフロート技術研究組合へ出向中)、大
松室長、渡辺室長、安藤研究官、矢後主任研究官です。


Q:大きくなることによって難しくなるのはどんなところですか。  

 つくること自身が難しくなります。海の上で次々と浮体をつないで大きな構 造物をつくらなくてはなりません。今までは、一方向につないで細長いものをつ くる技術でよかったのですが、広い面積をもった構造物をつくるには縦にも横に もつないでいく必要があり、このため水中溶接技術等を確立する必要があります 。(大川) 
 また、広い面積をもっていますから、風が吹くと非常に大きな摩擦力を受け ます。そのため、海洋構造物をつなぎ止める技術が重要となります。当所では、TLP ( Tension Leg Platform : 緊張係留方式)という方式を大型浮体構造物に適用 することを提案しており、実験によってその効果を調べています。これは浮体を 係留索により海中に強く引っ張り、浮体の浮力によって索をピンと張ろうとする ものです。海中に海上空港として利用するためには、航空機の着陸の際に使用さ れる誘導装置やレーダーなどの施設を、揺れないようにする必要があります。そ のための一つの方法として、当研究所では浮体構造物の運動を油圧装置等により アクティブにコントロールする方法についても研究しています。(安藤)  
 風だけでなく波の影響も考えなくてはなりません。大型の浮体が波によって どんな動きをするのかをコンピュータシミュレーションを利用して解析していま す。波の影響を小さくすると同時にそのエネルギーを利用できるものとして、浮 体の周りに波浪発電システムを設置することも考えられます。(矢後)

Q:安全性はどのようにして確保されるのですか。
 
 例えば、メンテナンスはどうするのですか。  設計の段階で、強度的な面 での安全性は十分にチェックされますが、問題は、設計段階で考慮されなかった 事態が発生した場合になおかつ十分に安全を確保できるかです。このため、実規 模に近い実海域実験の積み重ねが重要となります。メンテナンスは、従来のよう な耐用年数という考えではなく、計画的な保全を考慮した設計にする必要があり ます。保全ロボットなどの開発・利用についても考える必要があります。(大松 )


Q:どんな方法で研究を行うのですか。  

 水槽に大型浮体構造物の模型を浮かべてどのような動きをするのか調べ、コ ンピュータによる数値計算結果と併せて解析を行います。また、メガフロート計 画のような実海域の模型実験の結果も重要な研究材料です。これらの結果を用い て大型浮体構造物に関して総合的に研究を進めていきます。(大川)


Q:最後に、この研究での夢を話してください。  

 この大型浮体構造物を用いて、地震などの災害にも強い、環境にも優しい世 界初の浮体式洋上空港ができたらいいなと思います。(大松)  
 ヨットやボートなどのレジャー施設、海洋環境や生物の研究施設などもある 、洋上保養都市も楽しいですね。(安藤)