船舶技術研究所ニュース № 10

SRI NEWS


研究者インタビュー

放射性輸送物質の安全な輸送をめざして 輸送グループ 原子力技術部


現在、専用運搬船によって海上輸送される放射性物貫は、低・高レベル廃棄物をはじめとして使用済み燃料、プルトニウムなど様々なものがあり、将来的には高燃焼度使用済み燃料も考えられます。 これらの輸送では、遮蔽性能に優れた専門容器や専運搬船の設計が非常に重要です。その結果、安全性が向上し、さらには経済性も良くなります。そこで、放射性物質の輸送容器や運搬船に関する放射線遮蔽についての研究に取り組んでいる原子力技術部の植木さん、大橋さん、成山さんに研究の概要や現状、また将来展望などをお聞きしました。

Q.基本的な質問ですが、初めに海上輸送を行う理由を教えて下さい。
植木:低レベル廃棄物は、これをトラックで輸送するとすれば、一つの重量が500kgぐらいあるため、一台のトラック の積載量はせいぜい容器8本入りのコンテナが2個程度ですし、交通の激しい道路をこれらの廃棄物を積んで多数のトラックが通行することになり大変です。それに比べて専用運搬船ならば、トラックによる輸送に比べて安全に大量の容器を一度に運ぶことができるので海上輸送が重要となります。

Q.現在、グループとして取り組んでいる研究の内容についてお話下さい。
植木:第一には、放射性物質の専用運搬船や容器の放射線の遮蔽に関する計算方法の研究があります。遮蔽の計算方法には、現在いくつかの代表的なものがあります。例えば、簡易計算法、SN法、モンテカルロ法などですが、我々のグループでは複雑な形状のものを効率的に精度良く計算できるモンテカルロ法を主体として遮蔽計算を実施して、合理的で安全かつ経済的な遮蔽方法による設計を提案しています。  第ニには、輸送容器の遮蔽材の組み合わせの最適化化に関するものです。これは遮蔽材料をどのように配列すれば、より安全でかつ合理的な放射性物質の輸送容器(キャスク・図1)の設計が可能になるかを検討することにあります。

廃棄物輸送容器(キャスク)

Q.モンテカルロ法とは.どんな計算方法なのですか。
成山:非常に簡単に言うと、モンテカルロ法とは乱数を使って計算する方法でして、例えは放射能がどこで反応を起こすか、その後どの方向へ飛んで行くかを計算機で特別な”サイコロ”を振って決める方法です。

Q.貝体的にどの様な研究を実施しているのか、教えて下さい。
大橋:低レベル廃棄物の専用運搬船「青栄丸」を対象として研究を実施しています。具体的に言うならは、まず現実の運搬船の放射能を測定して安全かどうか、さらに計算機上でのシミュレーション計算による解析結果で安全かどうか、また設計に関わる安全裕度がどれぐらいあるかを明らかすることを研究の主なテーマとしております。 これは,実践実験における計測結果の一例(図2)ですが、低レベル放射性廃棄物運搬船「青業丸」のハッチカバー上での放射線の状況を色別に示したものです。 船内で常に人がいる居住区域での制限の上限値が1.8Sv/hですので、最も放射校の強くなるハッチヵバー中央ですら十分に小さい数値であることが実船実験による計測結果からも明らかです。

専用船ハッチカバー上の遮蔽状況

Q.モンテカルロ法について、研究との関わりをお話下さい。
植木:所内の研究テーマでもモンテカルロ法に関係するものが多くあります。モンテカルロ・シミュレーションという言葉があるように、種々のシミュレーションの計算手段として、例えば熱輻射の解析などにも十分に有用なものです。従って、私達のような原子力関係だけなく、他の分野での利用を考えた研究グループがあれば良いと思います。今後、若い研究者を中心にした研究検討グループが作られて、これまで原子力技術部で培われてきた経験や技術が所内外のいろいろな分野にも広く有効に利用されれば良いと考えています。

Q.最後に今後の計画や研究の将来についての考えをお聞かせ下さい。
植木:現在実施している実船の計測とシミュレーション計算というテーマをさらに高い精度と信頼性の実現を目的として継続実施することを考えています。そして、その結果、放射性廃棄物運搬船や輸送容器の合理的な設計に大きく寄与するデータが得られると同時に更なる安全性の向上に大きく貢献できるものと思います。また、モンテカルロ法をはじめとして私達がこれまでに獲得した知認や技術を広く社会に啓蒙していくことで、研究の意義がさらに高まるものと考えています。私選のグループは、放射性物質の輸送を対象として安全の問題を考えていますが、この「安全」というものを的確にいろいろな人に直に分かるように伝えるのは「安全」を研究している人間が良いと思います。実際に多くの人に、主婦にも.中学生にも、広く原子力のことを理解して頂ければ、研究者として喜びであり、そのこともまた大きな目的のひとつだと思います。



輸送グループのメンバー
前列、植木室長、後列左から、成山研究官、大橋研究官