船舶技術研究所ニュース № 18

SRI NEWS


プロジェクト研究紹介 Project research

海上監視支援システムに関する調査研究
く研究紹介>
ポードセイリングやヨツトレースなどのマリンスポーツが昨今華やかに行われています。それに伴い海難事故なども頻発しているのも事実です。今回は、NHKや読売新聞などの各報道機関で既にいろいろと紹介されている「海上監視支援システム」に関する研究をより詳しく紹介するために、研究を実施しているグループのシステム技術部金井室長、桐谷主任研究官、松倉研究官の皆様にお話を聞きました。

              
前列左から金井室長、桐谷主任研究官
後列松倉研究官                    海上監視先システムのイメージ図


0:この研究を始められたきっかけは、何でしようか。
A:研究を始めるきかつけとしては、救命ボートや漂流者を捜索する手法について海上保安庁が新たな救難用の海上監視手法の検討を開始したことです。その後、日本海難防止協会により平成5-6年に実施された「海難防止を目的とする海上監視システムの調査研究」の結果、今後開発されるべき技術は
合成開口レーダのように電波を放射し、その反射の強さを利用して画像を得るようなアクティブなセンサの利用技術と最新の画像処理の技術であるとの指針が示されました。この調査研究に船舶技術研究所と電子航法研究所の研究者が参加していたことから、次のステップとして運輸技術研究開発費を使い、両研究所の共同研究体制が作られましたo本共同研究の目的は、現実的に入手可能な可視光センサや赤外線センサなどの複数センサを用いて、画像情報を効率的に利用することにより、海上における遭難者の捜索を迅速に出来るようにするシステムを開発することです。


海上監視支援装置の表示画像

Q:海上監視では、非常に広い範囲が対象になると考えられますが、どんなコンセプトで研究を行っているのですか。
A:現状の捜索は、航空機により100Oft(約300m)程度の比較的低い高度から、目視やレーダ、一部では赤外線カメラにより行われています。言うまでもなく、海上保安庁の観測員の能力や救命への使命感は非常に高いものでありますが、人間だけでの観測には限界もあります。そのため、海上監視の信頼性や迅速性の向上の立場から、将来的には私たちの提案するような自律型自動監視システムとの併用が現実的なものと考えています。特に救難救命の立場では迅速であることが必須であることから、より高精度で有効なセンサを用いた高高度からの観測の実現が重要と考えています。
 私たちのシステムのコンセプトは、現状の捜索体制に新たなる負担をかけることなく、有効で効果的な捜索支援を実現することです。そのために、捜索現場においては、取り扱いが容易でコンパクトな新たなツールがひとつ増えると考えて頂きたいと思っています。


海上監視支援装置のコンピュータ部

Q:海上監視支援のために新たに開発した装置には、どんなものがあるのですか。
A:海上監視支援装置の機能を実現したシステムのプロトタイプ・モデルを開発しました。開発当初は、持ち運びか簡単で小型軽量な高機能装置を考えていましたが、実際は、現状の入手可能な範囲で構築しため、データ処理装置だけでも40kg位あり、これに画像センサやモニタなど加わりますので、残念ながら小型軽量可搬型とは言い難い現状です。ただ、装置の軽量化や小型化は容易に解決できる問題と考えています。
 装置の特徴としては、ひとつの匡体に2セットのコンピュータを配置したことです。ひとつは、赤外線カメラや高感度力メラからの画像情報の収集・記録並びに探索処理などを実行する機能を果たしており、もうひとつは探索結果に基づき支援を行う機能を分担しています。この2つのコンピュータでー連の処理手
順を分散して行っています。この結果、1サイクルの探索作業の処理時間を1秒以下にすることが可能となりましたので、ほぼリアルタイムで海上監視ができるようになりました。
目標物の探索は、赤外線カメラと可視光カメラによって実現しています。赤外線カメラは、海上に浮遊している物体が海面の温度と違うことを利用して、浮遊物を映し出す役目をします。また可視光力メラは、
浮遊物の色や形の特徴を捉える役目をします。探索結果、目標物と確認された場合には全地球衛星測位システム(GPS)よる位置情報を付加して、正確な位置を捜索者に提示出来るのです。また、この2つのカメラを利用することで、荒天下でも夜間でも問題なく使えることが最大の特徴とも言えます。

       
赤外線カメラによる画像              可視光カメラによる画像

0:その装置では、どの程度の監視支援が可能になってくるのですか。
A:本年9月初旬に海上保安庁の協力を得て、伸豆妻良沖で実物の直径は2.5mの6人乗り膨張型救命いかだを使った実海域での観測実験を実施しました。実験での高度は6500ft(約2000m)でした。この高度でのカメラ1セットの画像収録範囲は500m四方です。これは、現在の捜索観測者の視野と同じくらいの範囲となります。実験では、盆シシステムでの自動探索・判別が出来ることを実証しました。本システmは複数セットのカメラでも充分対応可能でありますから、観測範囲も任意に設定することが出来ます。この結果から、私たちが提案しているシステムは、非常に有効な手段であり、広範囲な海上に対する捜索を実現するものと思います。


伊豆妻良沖での実海域実験風景

Q:今後のこの研究をどのように発展させていくのですか。
A:本研究で確立した画像処理を海上監視だけでなく、船舶の安全航行にも適用することを考えています。具体的には、現在、船舶には衝突予防支援装置(ARPA)がありますが、これはレーダを使用したシステムになっています。そのため、気象・海象に依存しやすく、ARPAからの情報は点でしかないので対象物の大きさなどが分からないのです。そこで、それを補うために船員の目の補助となるような自動画像関しシステムを構築しようと考えています。このシステムはARPAをより高度なものとすることになります。