船舶技術研究所ニュース № 20

SRI NEWS

基礎研究紹介 Basic research


核燃料の安全輸送を目指して
「緊急時損傷形態の調査および遮蔽解析」について


船舶技術研究所ではこれまで核燃料や放射性廃棄物などを輸送するために必要な安全評価を研究してきました。今回「緊急時」における安全性についての研究を始めましたのでご紹介します。


緊急時
~突発的な事態に備えて~

原子力発電所で使用された核燃料(使用済み核燃料)はキャスクと呼ばれる専用容器に入れられて、船舶やトラックなどで海上や陸上を輸送されます。キャスクは放射線の遮蔽性能に優れており、通常の運搬作業では全く安全で安心な容器です。しかし私たちが予想していない突発的な事態(緊急時)、例えば、キャスクが何メートルもの高さから落下、突起物の上に落下、数十分高温にさらされる、数時間もの間深い水底にさらされる、などのことを想定してシミュレーション計算、実験など安全性に関する研究を行っています。

シミュレーション計算
~精度の高い計算手法を用いて~

遮蔽に関するシミュレーション計算の手法には幾つか代表的なものがあります。例えば、簡易計算法、SN法、モンテカルロ法[*1]などです。私たちはモンテカルロ法を用いて遮蔽のシミュレーション計算を行っています。モンテカルロ法はシミュレーションを行いたい物体を三次元的にモデル化し計算できるため、非常に精度の良い計算結果が得られます。他の方法より計算時間がかかるという問題がありますが、近年のコンピュータの進歩により高速に計算できるようになっています。

実験
~検証実験を行って~

計算の他にも実験を行って安全性を確認したり、計算との比較を行っています。例えば、電力中央研究所では実物のキャスクを用い高さ9mから落下させる落下試験I、直径15cmの軟鋼棒上に1mの高さから落下させる落下試験IIなど多くの実験を行っています。船研ではキャスクの模型を用い、色々な遮蔽材の性能を調べたり、どのように組み合わせれば最適な遮蔽構造が得られるかについて実験を行ったり、計算との比較を行っています。
最後に、私たちの研究では「緊急時」において輸送物や運搬手段がどのような損傷を被るか、また遮蔽材などの欠陥はどのような形態が考えられるかなどを検討するとともに、シミュレーション計算を行い「緊急時」に対応できるようにしています。



図:TN-12Aキャスク表面におけるガンマ線線量当量率分布の比較

厳密なモデル化を用いて計算を行った「実形状モデル」が、簡易的なモデル化を用いて計算を行った「均一モデル」より測定値に近いことが判る。



写真:トラック輸送されるキャスク                                                                                          


[*1]
モンテカルロ法とは一様分布など問題に適した分布を持つ乱数を、十分与えることで確率的に解いてみる手法。乱数を用いることから、賭け事の街として有名なモナコの都市モンテカルロの名がつけられた。