船舶技術研究所ニュース № 21

SRI NEWS

基礎研究紹介 Basic research

実験室内に北極海を再現する
-氷の特性と氷海模型の形成-




氷の短冊

右の写真は南極の湾内に張り詰めた氷板に向かって波が侵入した時に氷が壊れていく様子を捕えた珍しい写真です。流れ出た氷の形は人工的と思える程の短冊状で、その一辺は数10から100mのオーダーにもなっています。自然の氷には、このような不思議な現象がみられます。



写真 1 
湾内に張り詰めた氷板へ沖合い(写真手前)から波が侵入し、
氷海から崩れた氷が短冊型となって沖に向かって流れ出る様子。

氷海模型

氷海船舶試験水槽(以下、「氷水槽」と言う。)では、実際の船の1/20程度の模型を使い、北極海、南極海、オホーツク海などの氷海での船舶の航行を再現しています。
船舶は氷海の氷を壊し、それを押し退けて進んで行きます。これを氷水槽で再現するためには、氷の厚さを薄くする等の幾何学的な寸法だけでなく、氷の強度等の特性に加え、氷の壊れ方なども一致させることが必要となります。そのため氷水槽では実際の氷よりも結晶を小さくしたり軟らかい氷を作るなどの工夫をしています。
氷水槽の氷は-20℃位にまで冷凍機で冷やされた空気中にスプレーで霧状の水を散布して作られることで、より小さな結晶となります。氷は霧状の水が空中で凍って水面状に落ちた結晶の核を中心に成長を始め次第に下へと成長を続けて氷板を作ります(写真2)。軟らかい氷を作るため、プロピレングリコール等を氷水槽の水に添加したり、氷の中にとても小さな空気泡を取り込ませることで氷の特性を調整します。

写真 2 
氷水槽で作った氷の結晶(厚さ3.5 cm)の断面です。上下方向に伸びる様々な色の細長いものが氷の結晶。
偏光板によりこのような色が着きます。丸いものは氷に取り込まれた気泡。


データベース

 氷海を航行する船の様々な状況を氷水槽で再現するため、軟らかい氷を作るための添加物の種類や量、氷の形成方法等について幾つもの条件を整えることが必要となります。実際のオホーツク海の氷のデータに加え、氷海模型の形成に必要な様々な条件をデータベースとしてまとめ、流氷海域での船舶の安全な航行のために役立てています。