船舶技術研究所ニュース № 22

SRI NEWS

プロジェクト紹介 Project research

LCA(ライフサイクルアセスメント)研究グループ


最近、地球環境に対する関心や、環境保護の意識が高まりを見せている中、私たち人間の活動が地球環境にどのような影響を与えるのかを評価することの重要性が増してきています。
そこで、今回はISO(国際標準化機構)の環境管理に関する規格である14000シリーズの中にも取り上げられ、世界的にも注目されている環境影響を定量的に評価する方法の一つであるLCA(ライフサイクルアセスメント)を研究しているグループ(グループリーダー:木原特別研究官)に話を聞いてきました。



写真1 上段左より、 城田主任研究官、 桜井船舶用材料研究室長、
福元研究支援協力員、 久津見非常勤職員
下段左より、 千田機能評価研究室長、 亀山主任研究官、
木原特別研究官、 平岡新型式機関研究室長


 
Q:LCAとはあまり聞き慣れない言葉ですが、どのようなものでしょうか。

A:製品の一生(ライフサイクル)を考えて環境に与える影響を評価する方法のことで、ライフサイクルアセスメントといいます。例えば船であれば、船を造るのに必要な原材料を採取する段階、実際に船を造る段階、そして船を使って人やものあれば、船を造るのに必要な原材料を採取する段階、実際に船を造る段階、そして船を使って人やものを運ぶ段階 船を解体する段階、解体された資材をリサイクルしたりして、最終的に廃棄する段階までといった船の一生を検討の対象とします。(図1参照)
このような「製品の一生」を対象に次頁図2にあるように、まず、どんな目的で調査するのかという目的を設定し、次に、「製品の一生」の中で使用されるエネルギーや資源の量や環境に対して排出されるものの量(例えば、CO2 を何トン排出した、といったような)を定量的に把握し(インベントリ分析)、そして次の段階として、例えばCO2 であれば何トン排出されたのでどれ位影響があったのかというのを考え(影響評価)、「製品の一生」が環境に対してどの程度影響をしているのかということを評価します。このように製品の一生を考えて環境影響を評価する方法のことです。






図1 船舶のライフサイクル




図2 LCAの枠組み



Q:環境に与える影響を評価する方法は他にもあると思うのですが「LCA」の特徴というとどのようなものですか。

A:例えば、工場から排出される物質の量を調べて周りの環境にどれ位影響があるとか、今の季節だと海水浴場の水質を調べて、今年は安全に泳げるかどうかといった様な環境に関する調査はよく行われています。こういった調査は、ある意味では地域的、時間的に限定されたものが多いのではないでしょうか。LCAは、ある製品に着目して、その製品の一生を通しての環境影響を考えるところに特徴があります。
地球温暖化防止京都会議の際に CO2 の排出量を1990年当時と比べて6%減らしましょうということが決まりましたが、LCAを用いると、ある製品の一生のうちでどういった工程でCO2 をどれ位出しているのかを評価できますから、より効率的に減らすためにはどうするのかといった検討をすることができます。  このようなことができるのも、製品の一生を対象に評価を行うLCAの特徴といえるのではないでしょうか。


Q:具体的には、船研ではどのようなことをやられているのですか。

A:現在は、船の一生の中で使用する資源やエネルギー、環境に対する排出物などの種類や量を把握するというところを中心に研究しています。85,000トンのオイルタンカーを例にとって、このタンカーの生涯がどのような工程から成り立っているのかを詳細に調べて、各工程毎にどれ位のものの出入りがあるのかを調査しています。現在、対象とした船のライフサイクル全体を通しての大まかな評価ができたところです。
また、船用のLCA解析用ソフトウェアの開発やそのために必要なデータの収集なども積極的に行っています。


Q:LCAは、どういったものに活用されるのですか。

A:先ほどCO2 の削減の話をしましたが、CO2 削減だけでなく環境に優しい製品を作るのに役立ちます。LCAを実施すると、環境に影響を与えるものの各工程からの排出量が分かりますから、どこを改善すればより環境に優しくなるのかということが判断できるようになります。
また、最近はヨーロッパを中心にグリーン調達という考えが広まりつつあります。グリーン調達というのは、環境に優しいものだけを使いましょうという考え方で、日本でも徐々に取り入れられつつあります。このような考え方が一般的になってくると、自分たちが 購入している資材や部品が環境に 優しいものなのかどうなのかとい優しいものなのかどうなのかとい った判断や、自分たちの作っている製品が環境に優しいものであるということを示す必要が出てきます。このような時にLCAが役立ちます。
また、環境に優しい商品として再利用可能な商品というのがあります。しかし、再利用するためには回収したり、再利用するための処理をする必要があります。こういった作業にはかなりのエネルギーを使用することもあり、場合によっては焼却し処分した方が環境に優しいかもしれません。LCAは製品の一生をその検討対象にしており、こういった問題に対して適切な評価ができるため、より環境負荷の少ない再利用法の提案ができたり、商品の環境への優しさを、再利用や最終的な処分まで含めた形で的確に示すことができます。従って、その結果が表示されていれば、消費者が商品を選ぶ際の大きな手助けになるのではないでしょうか。


Q:最後に、今後の展望といったものを教えて下さい。

A:LCAはまだまだ新しい考え方で、特に船舶の分野では、まだその研究は緒についたばかり、といったところです。今の段階では有用なデータを集めることだけでも大変苦労しています。今後は、今まで以上により詳細なデータを調査収集して研究の精度を上げていくことを考えています。また、現在は限られた船種を例として検討しているので、もっと多様な船種についての検討もやっていきたいと考えています。
世界的にも船の解撤の話が問題となっています。解撤の部分は公害の輸出だとか色々言われている部分ですが、その部分をより検討していくことも必要でしょう。
最終的には、設計の段階で事前に環境に対する評価ができ、その結果が設計にフィードバックされて、より環境に優しい船が設計できるといったようになると良いですね。そういったことが早く実現されるようにしていきたいと思っています。