海技研ニュース № 2

NMRI NEWS

漁船「第五龍寶丸」転覆事故調査について

  昨年9月11日、北海道襟裳岬南西約20海里の海域で、沖合底びき網漁船「第五龍寶丸」*が揚網中転覆し、乗組員18名中14名が行方不明となりました。
この事故を受けて、運輸省海上技術安全局(現国土交通省海事局)に「漁船『第五龍寶丸』事故再発防止検討会」が設置され、転覆に至った状況を調査・検証し、その結果に基づいて同種事故の再発防止対策の検討が行われました。
海技研は、事故発生時の復原力や傾斜モーメントの推定を行った他、同型船による加速旋回試験を実施するなど、事故状況の検証に関して中心的な役割を果たしました。



①多量の漁獲物が入った漁網の
引揚げにより、復原力が減少
②操船(全速前進、右舵一杯)
直後、右舷側に若干傾斜
③旋回運動の発達に伴い、遠
心力によって左舷側に傾斜



④漁網の一部など船内搭載物が
左舷に移動し、傾斜が増大

⑤漁獲物が入った漁網が移動し
てさらに傾斜し、開口部から海水
が流入
⑥転覆



  その結果、この船は、多量の漁獲物の入った漁網を引揚げたことにより、復原力が大幅に減少 したことが分かりました。そして、急激な操船を行った結果、遠心力により左舷側に大きく傾斜し、続いて船内搭載物や漁獲物が入った漁網が移動して傾斜がさらに大きくなり、最後に居住区への出入り口から海水が流入して、転覆に至ったことが分かりました。
さらに、海技研では、この事故状況から、
  ① 多量の漁獲物の入った漁網の引揚げ
  ② 急激な操船による内方・外方傾斜  
  ③ 船内搭載物の移動  
  ④ 漁獲物の入った漁網の移動
の4事項を事故関連要因として抽出し、各要因と転覆との関連を分析するとともに、パラメータ 計算を行って転覆への影響度を評価しました。
  これらの検討結果は、本年3月に検討会において事故再発防止対策に関する提言としてまとめられ、それを受けて国土交通省海事局で具体的な施策に反映すべく検討を進めた結果、8月3日付けで漁業関係団体に事故再発防止対策についての通達が出されました。当所は、この通達の技術的内容の検討に際し協力を行ったほか、講習会等で事故原因及び再発防止対策を周知啓発するためのパンフレットやビデオの作成にも取り組みました。

第五龍寶丸
昭和58年に竣工した登録長31.9m、型幅7.40m、型深さ4.65m、総トン数160トンの二層甲板型船尾トロール式 大型沖合底びき網漁船であり、準同型船である124トン型を含めて全国に約60隻の同型船が操業している。