パラメトリック横揺れ

PARAMETRIC ROLLING

パラメトリック横揺れは、波浪中で船の横揺れに生じる共振現象の1つです。分かり易い船の共振現象の例として、波浪による周期的な横揺れモーメントが船の横揺れ固有周期に一致することで生じるものがあります。パラメトリック横揺れは、このような強制振動における共振とは異なり、工学的には係数励振振動における共振に分類されます。係数励振振動とは、通常は定数とされる振動系の係数が周期的に変化することで起こる振動現象です。パラメトリック横揺れの場合に具体的には、ばね定数に相当する横揺れ方向の復原力に関する係数が、波浪中で周期的に変動することに因ります。この横揺れ方向の復原力係数の変動は、水線形状の変化に起因しています。

水線形状は、波のない静止水面中では、喫水線を含む平面で船体を切ったときの断面です。波浪中においては、喫水線付近で船体の上下方向に形状が変化している限り、すなわち喫水線周りで外板が全て垂直でない限りは、静止水面の水線形状と少なからず異なります。船首あるいは船尾から船長方向に波が入射する縦波における波浪中の水線形状の変化の一例を図1に示します。コンテナ船といった痩せた船型は、バウフレアやトランサムスターンにより、甲板の幅が船長方向にあまり変化しないため、船首尾付近で上下方向の幅の変化が著しく、本図に示すように波浪中での水線形状が大きく変化する傾向があります。波の谷が船体中央付近にくる状態で水線面積は増加、一方、波の山が船体中央にくる状態では減少します。船の水線面積の増減に伴い、船体中心線周りの水線面の断面2次モーメントも増減します。水線面の断面2次モーメントと横メタセンター半径 BM は近似的には線形関係にあります。また、一般に横メタセンター高さ GM の大きさは、船の横復原モーメントの大きさに影響します。そのため結果として、波浪中において水線面積が変動することは、横揺れ方向の復原力係数が変化することに繋がります。

図1 波浪中における水線面積の変化

縦波中におけるパラメトリック横揺れによる典型的な横揺れ角の発達過程を図2に示します。ここでは、突風などで船に一時的に横揺れが生じる場合を想定します。波がなければ、この横揺れは、固有周期で動揺を繰り返しながら、造波や造渦・摩擦抵抗によって生じる減衰力により、振幅が減少していきます。また、縦波中では波浪外力による横揺れモーメントは通常微小のため、波以外の外乱がない限り周期的な横揺れは生じません。他方、突風などで生じた最大横傾斜状態から直立へ戻り始めているときに波の谷が船体中央付近にくる状態(図2の①)となると、横復原モーメントの増加により、波のない場合よりも大きな角速度で直立位置を通過します。次に、直立位置通過後反対舷に横傾斜し始めているときに波の山が船体中央にくる状態(図2の②)になると、横復原モーメントの減少により角速度の減少割合が低下し、より大きな横揺れ角が反対舷側で生じます。その最大横傾斜後に、直立へ戻り始めているときに再び波の谷が船体中央付近にくる状態(図2の③)となると、横復原モーメントの増加によりさらに横揺れは勢いづきます。このように、波による横復原モーメントが船の横揺れを絶えず助けるように働く過程を繰り返すことで、横揺れは次第に大きくなり、ついには転覆してしまいます。図2からも分かるように、このような現象が起こるのは横復原モーメントの変化周期(すなわち出会い波周期)が横揺れ固有周期の約1/2倍のときです。この点が、出会い波周期が横揺れ固有周期に一致するときに生じる波浪による強制動揺における共振と異なるパラメトリック横揺れの特徴の一つです。

図2 パラメトリック横揺れの発達過程

前述の通り、平水中において初期傾斜をつけて自由横揺れした船の振幅は次第に減衰していくため、実際は、波浪中の復原力変動よる1サイクル中のエネルギー利得が、減衰力によるエネルギー損失よりも大きい状況でなければ、横揺れは発達しません。すなわち、パラメトリック横揺れの発生は、復原力変動の大きさと船の持つ横揺れ減衰力によって決まることを意味しています。

海上技術安全研究所(以降、当所と称する)の実海域再現水槽で、コンテナ船模型(実船長さ262m)にパラメトリック横揺れを発生させたときの計測映像を図3に示します。波形の山谷が規則的に繰り返される波を正面から受けて、模型船が航行している状態です。正面向波中ではじめは微小だった横揺れが時間の経過とともに徐々に大きくなり、最終的に横揺れ角が片振幅約25度まで発達しています。

図3 コンテナ模型船の規則波中パラメトリック横揺れ試験動画 (波長船長比:1.1, 波高船長比:1/73, 波向き:正面向波, フルード数:0.05)

規則波中に限らず、実海域のような不規則波中においても同様のメカニズムでパラメトリック横揺れが発生し得ます。実際に当所の実海域再現水槽での模型試験で発生した向波の多方向不規則波中におけるパラメトリック横揺れの計測映像を図4に示します。不規則波中において船が出会う個々の波の性質は空間的および時間的に変化するため、規則波中とは異なり一時的ですが、開始10秒後あたりから徐々に横揺れが大きくなり、25秒後付近で最大横揺れ角(両振幅約20度)が生じています。その後は、再びパラメトリック横揺れは発生しなくなり横揺れ角が小さい状態が続いています。

図4 コンテナ模型船の多方向不規則波中パラメトリック横揺れ試験動画 (スペクトル型:JONSWAP, 方向分布関数:cos3乗型, 有義波高(実船換算):6m, 平均波周期(実船換算):13s, 波向(主方向):正面向波, フルード数:0.05)

パラメトリック横揺れは、試験水槽や理論上だけの問題ではありません。1998年の北太平洋上におけるC11級ポストパナマックス・コンテナ船の向波中のコンテナ損傷事故1)をはじめとして、パラメトリック横揺れに起因すると考えられる大型コンテナ船等の荷崩れ事故が近年までに続々と報告されています例えば2)。国際海事機関(International Maritime Organization, IMO)は、2020年にパラメトリック横揺れを含む動的復原性モードに対する評価基準を定めた「第二世代非損傷時復原性基準に関する暫定ガイドライン」3)の導入の承認をしました。本暫定ガイドラインでは、パラメトリック横揺れに関して、発生危険性の判定や横揺れ角の推定方法、回避のための操船ガイダンスの策定等について提言されています。このような背景のもと、当所では現在、2023~2029年度の7ヵ年における第2期中長期計画の重点研究の枠組みで、パラメトリック横揺れの発生条件やその横揺れ振幅の理論的計算法の開発、ならびに計算法の検証やより詳細な現象解明のための模型実験を実施しています4)

本解説文の作成にあたり、文献5)~8)を参考にしました。

参考文献
  1. France, W. N., Levadou, M., Treakle, T. W., Paulling, J. R., Michel, R. K., and Moore, C.: An Investigation of Head-Sea Parametric Rolling and Its Influence on Container Lashing Systems, Marine Technology, Vol.40, No.1, pp.1-19, 2003.
  2. Marine Accident Investigation Branch (MAIB): Report on the Investigation of the Loss of Cargo Containers Overboard from P&O Nedlloyd Genoa North Atlantic Ocean on 27 January 2006, Report No. 20/2006, 2006.
  3. International Maritime Organization (IMO): Interim Guidelines on the Second Generation Intact Stability Criteria, MSC.1/Circ.1627,2020.
  4. 大田大地, 田口晴邦, 黒田貴子:短波長不規則波中のコンテナ船のパラメトリック横揺れについて, 第24回 海上技術安全研究所 研究発表会においてポスター発表, 2024年7月26日, 東京. https://www.nmri.go.jp/event/presentation/r6_poster.html
  5. JSMEテキストシリーズ 振動学, 日本機械学会, 丸善書店, 2005.
  6. 池田良穂, 梅田直哉, 慎燦益, 内藤林:船舶海洋工学会シリーズ⑤ 船体運動 耐航性能 初級編, 日本船舶海洋工学会, 成山堂書店, 2013.
  7. International Maritime Organization (IMO): Explanatory Notes to the Interim Guidelines on the Second Generation Intact Stability Criteria, MSC.1/Circ.1652,2023.
  8. 武田勝利, 赤木正則, 石橋公也:「パラメトリックロール対策に関するガイドライン」の紹介, ClassNK技報 特集記事:コンテナ船の安全運航への取り組み, No.7 2023年(I), pp.11-18, 2023.