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深海技術研究グループ研究紹介
海底熱水鉱床開発に向けた取組

日本の排他的経済水域には多くの海底熱水鉱床※1が賦存していることが知られており(図1)、その開発のための採鉱システム(図2)の研究開発が国家的なプロジェクトとして実施されています。採鉱システムの開発・運用にあたっては、解決しなければならない技術的な課題が数多く残っています [1][2]。

深海技術研究グループ(以下、当グループ)では海底熱水鉱床等の海底鉱物資源の開発に資することを目的として、以下の3つのテーマの研究を行っています。

■ 海底鉱物資源の掘削に関する要素技術の研究

■ 海底鉱物資源の揚鉱※2に関する要素技術の研究

■ 海底鉱物資源の海底での処理に関する研究

ここでは揚鉱に関する要素技術の研究のうち、揚鉱管※3の特性評価に関する研究についてご紹介します。



図1 日本周辺における海底熱水鉱床の分布 [4]


図2 海底熱水鉱床開発のための採鉱システムイメージ図 [4]

  • 揚鉱管の特性評価の重要性

海底熱水鉱床で掘削した鉱石を揚鉱する方式として、鉱石と海水をスラリー※4状にしてポンプで移送する方式が想定されています。その開発を進めるにあたっては、管内を流動する鉱石の衝突による揚鉱管内壁の摩耗量や、揚鉱時における管内の圧力損失の評価を行う必要があります。摩耗量の評価は揚鉱管の設計や運用条件の決定等に関して、また圧力損失の評価は揚鉱ユニットを構成するポンプの選定等に関して、重要な知見を与えるものです。当グループでは、これらの評価に関する研究を行っています。


    (1) 揚鉱管の摩耗性の特徴

一般に、管の摩耗量は内壁に衝突する鉱石の総重量や速度に関係することが知られています。しかし、従来の研究は、管内径に対して小さなサイズを有する粒子がもたらす摩耗に関する研究がほとんどです。当グループでは、大粒径の模擬鉱石を用いた循環式のスラリー移送試験を実施し、揚鉱管内壁の材質・ライニングの違いや配管の傾斜角等が摩耗量へ及ぼす影響を評価してきました(図3)。図4に、一定の流速とスラリー濃度※5でスラリーを循環させたときの配管の摩耗量を示します [3]。図の縦軸は管長1m、スラリー移送時間1時間あたりの摩耗量を表しています。この試験結果から、傾斜角や材質の違いが摩耗量に影響を及ぼすことを確認できました。今後も研究を進め、基礎データを蓄積することにより、海底熱水鉱床の開発を研究開発の面から支援していきたいと考えております。



図3 循環式のスラリー移送試験装置の一例



図4 循環式のスラリー移送試験における管摩耗量の結果(例)(上:管摩耗量、下:傾斜配管の模式図)


    (2) 傾斜管内の圧力損失について(本研究はJSPS科研費 25289323の助成を受けたものです)

深海底で鉱物を掘削する採掘ユニットと揚鉱ユニットの接続には、採掘ユニットが海底を自由に移動できるようにフレキシブルホースの適用が検討されています(図2)。このフレキシブルホースは傾斜部を有しており、傾斜管内の圧力損失を評価することは、ポンプの設計だけでなく、ホース内での鉱石の閉塞回避等の運用面でも重要です。
大粒径の固体群をスラリー移送する時の管内の圧力損失に関する研究は、水平管や鉛直管を対象にしたものがほとんどです。当グループでは、縮尺1/8程度の配管を用いたスラリー移送試験を実施して(図5、図6)、傾斜管内における圧力損失の推定式を提案しました[5]。

管内の全圧力損失\( \Delta P_m \)を、流体だけの単相流による圧力損失\( \Delta P_w \)と固体粒子による付加的な圧力損失\( \Delta P_s \)との和で表します。

\[ \Delta P_m =\Delta P_{w}+\Delta P_{s} \]

\( \Delta P_w \)は次式で与えられます。

\[ \Delta P_w =f_{w}\frac{\Delta L}{D}\frac{1}{2}\rho_{w}\left( \frac{V_w}{V_m} \right)^2V_{m}^2 \]

ここで、\( \rho_w \)は流体密度、\( \Delta L \)は管路長さ、\( D \)は管内径、\( f_w \)は管摩擦係数、\( V_w \)は流体速度、\( V_m \)はスラリー平均速度です。
\( \Delta P_s \)は、固体粒子を浮遊させるのに必要な圧力損失、固体粒子と管壁との摩擦及び衝突による損失、固体粒子相互の衝突による損失の和と考えられます。

\[ \Delta P_s =\rho_{w} g \Delta L \cdot C_{s} \left( S_{s}-1 \right) \sin{\theta}+f_{s}\frac{\Delta L}{D}\frac{1}{2}\rho_{w}V_{m}^2+\Delta P_{s\_coll} \]

ここで、\( \theta \)は管の傾斜角、\( C_s \)は管内スラリー体積濃度、\( S_s \)は固体粒子の比重、\( f_s \)は固体粒子群を含むことによる管摩擦係数の増加分、\( \Delta P_{s\_coll} \) は固体粒子相互の衝突による損失です。
固体粒子と管壁との摩擦・衝突による損失及び固体粒子相互の衝突による損失については、鮎川らが提案した水平管内のスラリー移送を対象にした評価式[6]を採用しました。この評価式は、固体粒子群が一部浮遊を伴う摺動状態にあることを仮定して導かれております。
図7に、圧力損失の推定式を用いた推定結果と試験結果の比較を示します。比較対象は次式で示される水力勾配\( I_m \)としています。

\[ I_{m} = \frac{\Delta P_{m}}{\rho_{w} g \Delta L} \]

比較結果から、推定式が傾斜管内の圧力損失の推定に適用できる可能性があることが示唆されました。今後は、他の固体粒子を用いたスラリー移送試験等を実施して、推定式の高精度化を図っていきたいと考えております。





図5 傾斜管を対象としたスラリー移送試験装置の一例


図6 固体粒子群(アルミナボール)の移送状況(左:傾斜角30deg.、右:傾斜角90deg.)


図7 水力勾配の推定結果と試験結果の比較(左:アルミナボール、右:砕石)

 

※1 海底深部に浸透した海水がマグマ等の熱により熱せられ、地殻に含まれている有用元素を抽出しながら海底に噴出し、それが冷却される過程で、熱水中の銅、鉛、亜鉛、金、銀等の重金属が沈殿したもの [4]

※2 海底で掘削した鉱石を海上まで移送すること

※3 海底で掘削した鉱物資源を海上へ移送する際に用いるパイプ

※4 液体中に固形物が混ざった混合物

※5 スラリー中の固形物の体積割合



  • 参考文献

[1] 海洋基本計画(平成25年4月)

[2] 経済産業省 海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(平成25年12月)

[3] 高野 慧、小野 正夫、正信 聡太郎 海底鉱物資源開発における大粒径粒子のスラリー移送による傾斜管の摩耗量評価 日本船舶海洋工学会講演論文集 第19号(平成26年11月)

[4] 経済産業省資源エネルギー庁他、海底熱水鉱床開発計画 第1期最終評価報告書(平成25年7月)

[5] S. Masanobu, S. Takano, T. Fujiwara, S. Kanada, M. Ono: EXPERIMENTAL STUDIES OF PRESSURE LOSS IN INCLINED PIPE IN SLURRY TRANSPORT FOR SUBSEA MINING, OMAE2015-41211, 2015.

[6] 鮎川恭三, 越智順治: 固体粒子の水平管水力輸送における圧力損失, 日本機械学会論文集(第2部), Vol.33, No.254, 1967, pp.1625-1632.