-高速船引き込み試験とシミュレーション-
海洋システム研究グループでは「ロジスティックハブシステムの構築のための技術検討」の一環として、人員輸送に携わる高速船のロジスティックハブへの引き込み試験及びシミュレーションを実施しました。
ロジスティックハブ
ブラジル・リオデジャネイロ沖といった現在新たに計画されている海底油田開発の多くでは、陸岸から沖合に大きく離れた外洋域、大水深の海域が想定されています。しかし、陸岸近傍の浮体施設において現在採用しているヘリコプターによる人員・物資の輸送方法が非効率となるため、陸上施設と洋上の油井上に数多く点在する各浮体施設との間の効率的な人員・物資の輸送が課題となっています。その解決索として効率的な洋上輸送を実現するため、洋上の海洋開発施設群近傍に、輸送拠点となる大型の鋼製浮体(ロジスティックハブ)(以下:ハブ)を配備し、陸上施設とハブの間を高速船による大量輸送で、ハブと各海洋開発施設の間をヘリコプターによるシャトル輸送で結ぶハブ・アンド・スポークの輸送方式(ロジスティックハブ方式)が考えられています。図1に概念図を示します。
高速船引き込み試験
ロジスティックハブ方式を検討するに当り、ハブと高速船の接続方法として高速船をハブに横付けする方法、ハブ後部に設けられた船尾ドックに高速船が船首より進入する方法等が挙げられますが、荒天下においても確実に接続できる方法として、2本の索を用いて高速船を船尾ドックへ引き込む方式を検討しました。本試験はこの方式の成立性を検討する目的で実海域再現水槽において、風浪、うねり、風環境を再現して実施しました。(図2)。引き込み索の張力変動と高速船の運動について評価を行うと共に、ロジスティックハブと高速船の相対方位角(補足1)及び、引き込み索の張力変動抑制制御引き込みシステムの開発も同時に行いました。このように海洋開発の分野では、厳しい海気象条件の中でのオペレーションも想定されているため、風浪、うねり、風等を再現した複合環境下での水槽試験が重要となります。当所ではこのような環境を再現した試験が実施可能です。
高速船引き込みシミュレーション
海洋開発の分野では模型試験と併せて数値シミュレーションを行い、ハブの運動や係留システムの総合的な安全性評価を行うことも重要です。本検討でも前述した水槽試験に加え、引き込み索の最大張力を予測するために高速船の引き込みシミュレーション計算を実施しました。本解析では汎用浮体運動解析ソフトOrcaFlex(英:orcina社製)を用いて、時々刻々の2船体の動揺を考慮し斜波、風環境下での計算を行いました(図3)。
結果
高速船引き込み試験では2本の索を使用した高速船を船尾ドックへ引き込む方式の成立性を確認できました。また、相対方位角及び張力変動抑制引き込みシステムが有効であることを確認できました。 高速船引き込みシミュレーションでは汎用浮体運動解析ソフトを使用して求めた索張力の最大期待値が、模型試験で計測した値と概ね一致していることを確認しました。これにより索張力の最大期待値を予め予測出来るようになりました。





補足
補足1 相対方位角:高速船とハブの方位角の差(図5)
参考文献
[1] 珠久正憲 J-DeEPの野望 海上技術安全研究所第13回講演会(平成25年)
謝辞
本内容ではJ-DeEP(Japan offshore Design and Engineering Platform)技術組合殿からの受託研究について紹介しています。関係者の皆様にお礼申し上げます。