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自動運航船の操縦性能に関する技術開発において、自動離着桟は低速操船時の舵効きの低さから難易度が高い技術とされています。このため、自動離着桟アルゴリズム及びシステムは、実船で実証を行う前に、操縦運動シミュレーションや模型試験によって事前に検証しておくことが重要です。
海上技術安全研究所ではこの検証に関する技術開発の一環として、自由航走模型試験に基づいた評価手法を提案しています。具体的には、模型船の前後方向に任意の力を与えられるダクトファン式の補助推力装置の利用を前提として、船速舵効き修正法という模型船の操縦運動を合理的に実船と相似にするプロペラ回転数と補助推力量の制御手法を適用するものです。この手法は低速操船時やプロペラ逆転時にも対応できるように方法論が拡張されています。また、同じダクトファン式の補助推力装置を合計6基、模型船の左右方向にも向けつつ取り付けて利用することで、操縦運動中の実船に作用する風圧力を模型船で再現できる風荷重模擬装置も利用します。これらの手法及び装置の適用により平水中や外乱下における低速時の実船の操縦運動を模型船で再現できることになるため、実船相当の状況下で自動離着桟アルゴリズムの検証を行うことが可能になります。理論的には、本模型試験システムで検証された自動離着桟アルゴリズムやその制御パラメータは、尺度の違いに関する修正のみを行うだけでそのまま実船での実証に適用できます。
今回の公開実験ではZoom配信により、これらの模型試験手法及び実験システムについて、同試験法を適用した実海域再現水槽での自動着桟のデモンストレーションをライブ映像で織り交ぜながら紹介しました。本実験の対象船は垂線間長170mのケミカルタンカーで、模型船の縮尺は1 / 43.7です。適用した自動着桟アルゴリズムは海上技術安全研究所で開発した経路追従アルゴリズムと船速調整のためのプロペラ回転数設定手法です。このアルゴリズムは小型実験船による実船実験で効果が実証されています。実施したデモンストレーションでは、外乱が無い状態の平水中自動着桟の制御パラメータの違いによる失敗例と成功例、風荷重模擬装置を用いた実船スケールで風速10m/sの強風状態における自動着桟の失敗例を紹介しました。そして、自動着桟時の風外乱対策は必須であることを述べ、海上技術安全研究所で研究開発を進めている風外乱補償制御の一例を紹介しました。
このオンライン公開実験には50名の方々にご参加いただき、最後の質疑応答ではオンライン配信のQ&A機能も用いながら質問への回答も行いました。一方で、配信開始からの冒頭2分程度、音声入力の不手際により、説明者の音声が無いまま説明を続けてしまう事態となりました。参加いただきました皆様にこの場を借りてお詫びいたします。
説明役の北川主任研究員
(マスクを外していますが前方に人はいません)
台車上からの自動着桟デモンストレーション時の模型船航走の様子