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令和5年2月27日

 船舶・海洋構造物の信頼性評価のための溶接・接着による接合試験体のデモ実験をオンラインで公開(結果報告)

 令和5年2月20日、国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所(所長 安部昭則)は、船舶・海洋構造物の接合技術に関する研究開発の一環として、将来、実用化が期待される新しい溶接技術や、先端材料適用のための接着接合に関する新しい評価技術について、基礎実験の様子をオンラインで公開しました。このイベントはライブ配信で行われ、112名の方々にご参加いただきました。

 今回の公開実験では、接合技術の研究開発に焦点をあてて、構造・産業システム系の岩田系長から本公開の主旨を冒頭で説明し、その後、以下の2つの研究テーマを題材として基礎実験の様子をオンラインで紹介しました。


     岩田系長より本公開の主旨を説明
  •溶接継手の疲労強度評価および疲労強度改善手法の性能評価に関する試験
  (発表者:構造・産業システム系 材料強度研究グループ 笛木)

  •接着接合した繊維強化複合材料(FRP)の破壊靭性・き裂進展速度の評価試験
  (発表者:構造・産業システム系 材料強度研究グループ 松尾)

溶接継手の疲労強度評価および疲労強度改善手法の性能評価に関する試験の紹介

 船舶や艤装品には溶接による接合が多用されています。溶接により接合された継手(溶接継手)は引張強さ等の静的強度に優れる一方、負荷の繰り返しに対する強度である疲労強度が溶接を行わない母材の疲労強度に比べて大幅に低く、疲労き裂・疲労破壊が生じやすいことが知られています。溶接部の疲労強度を向上させることで、部材の薄肉化・軽量化が可能になります。ニードルピーニング施工は施工箇所の表面層に圧縮残留応力を導入することで溶接継手の疲労強度を向上させる二次加工手法であり、艤装品については適用例も報告されています。本発表では、ニードルピーニングによる疲労強度向上のメカニズムおよび施工効果の評価指標等についてご紹介するとともに、ニードルピーニング施工の実演、残留応力計測(施工効果の評価指標の一つ)ならびに疲労試験(施工効果の実験的検証)デモの様子を発表しました。
 本発表では、以下の流れで説明を行いました。

  1. 背景
    ✓溶接接合の特徴
    ✓溶接継手の強度上の問題点
    ✓溶接部における疲労強度の低下要因
    ✓溶接部の疲労強度改善手法
    ✓ニードルピーニングについて
  2.  
  3. 疲労強度改善手法の性能評価に関する試験の流れ

  4. 試験のデモ

  5. おわりに


     発表者:構造・産業システム系 材料強度研究グループ 笛木研究員

繊維強化複合材料(FRP)の接着接合の破壊靭性・き裂進展速度の評価試験の紹介

 繊維強化複合材料(FRP)は、軽量で、強度・剛性が高く、腐食に強いという特徴を有し、舶用プロペラや艤装部品、燃料タンク等に適用され、また補修パーツとして利用されることが期待されています。FRP等の樹脂系部品の組立工程では、接着剤による接合が用いられることが多く、金属部品との異種材接合も可能です。接着部の疲労強度を適切に評価し、安全設計に活用することにより、FRPを用いた船体等の寿命予測、メンテナンスに役立てることができます。本発表では、CFRPや接着接合の試験法に関する新しい取り組みとして、試験機とき裂先端観察画像を同期して、より精度の高い破壊靭性を評価できるシステムや、疲労試験機に特殊な制御プログラムを実装して、き裂進展の下限値を検出する評価試験の様子を紹介しました。
 本発表では、以下の流れで説明を行いました。

  1. 繊維強化複合材料(FRP)とは
  2.  
  3. “破壊靭性”と試験法の目的

  4. 実験デモ紹介
    ①CFRP積層板の破壊靭性試験
    ②接着試験片の界面破壊靭性試験
    ③繰り返し疲労によるき裂進展評価試験

  5. まとめ


     発表者:構造・産業システム系 材料強度研究グループ 松尾グループ長

総括

 接合技術は、安全性と生産性のトレードオフを解決しなければならない、重要な技術です。難しい課題ではありますが、開発現場、研究分野で取り組んでいらっしゃる方々の課題ともリンクしていることが多くあると思います。今後も引き続き追究し、このような公表の場を借りて、海技研が取り組んでいる先端技術を広く発信して、連携できるところを模索していきたいと考えております。少しでも興味を持って参加いただきました皆様に感謝申し上げます。