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令和5年6月2日

 一ノ瀬主任研究員、谷口主任研究員、和田主任研究員が「日本船舶海洋工学会賞(論文賞)」、花木研究員、小森山研究員が「日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞)」を受賞

2023年6月1日(木)に公益社団法人 日本船舶海洋工学会の各賞の表彰式が気仙沼中央公民館及びオンラインで行われ、当所からは論文賞と乾賞 計4件を受賞しました。
流体設計系一ノ瀬主任研究員、構造・産業システム系谷口主任研究員、知識・データシステム系和田主任研究員が日本船舶海洋工学会賞(論文賞)1を、流体設計系花木研究員、構造・産業システム系小森山研究員が日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞)2を受賞しました。

1日本船舶海洋工学会賞(論文賞):造船、造機、海洋工学その他一般海事に関する優秀な論文で公表されたものの中から表彰されるものです。
2日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞):船舶工学および海洋工学分野における若手研究者の創造的研究を奨励し、広く技術の発展を促すため、独創的かつ優れた論文を発表した若手研究者が表彰されるものです。

1.日本船舶海洋工学会賞(論文賞)、日本海事協会賞

受賞論文:A curved surface representation method for convolutional neural network of wake field prediction, Journal of Marine Science and Technology, Vol. 27, issue 1, March 2022.

(概要)
機械学習を用いた船舶推進性能の推定は1990年代から提案されてきましたが、初期のニューラルネットワークではその特性上、複雑な3次元形状を持つ船体形状を20個以下の船型パラメータで簡易表現するしかなく、その利用範囲は限られていました。
本論文では船舶や航空機等の3次元曲面を、画像解析の分野で発展した畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)で扱うための形状表現手法を提案することで、機械学習において曲面形状を2万点以上のデータで表現することに成功しました。また、これまでの機械学習モデルは出力である推定値が造波抵抗などのスカラー値に限られていたところ、画像生成系の機械学習モデルを参考にモデルの出力をベクトル表現とし、従来推定が難しかった船尾プロペラ面の伴流場の推定が可能になりました。この手法により従来、配置・復原性・構造などの多目的最適化でボトルネックとなっていた流体解析の計算時間が大幅に短縮でき、今後さらに進んだ船舶の統合設計の実現につながります。

(受賞者)
一ノ瀬 康雄(海上技術安全研究所 流体設計系)
谷口 智之(海上技術安全研究所 構造・産業システム系)


写真1
 谷口 智之氏
写真2
一ノ瀬 康雄氏
(在外研究中のため欠席)

2. 日本船舶海洋工学会賞(論文賞)、日本造船工業会賞

受賞論文:Shipbuilding capacity optimization using shipbuilding demand forecasting model, Journal of Marine Science and Technology, Vol. 27, issue 1, March 2022.

(概要)
造船市場は需給不均衡の影響が長期化しやすく、現在も船舶の建造能力の過剰の影響が継続しており、経済協力開発機構(OECD)造船部会では、その解決に向けて議論をしています。しかし、未だ船舶の建造能力が造船市場に与える影響を定量的に分析できておらず、その適切な調整シナリオも示されていません。本研究は、造船業が持続的に発展するための船舶の建造能力の適切な調整シナリオとその影響を明らかにすることを目的に実施しました。
受賞論文では、船舶の建造能力の拡張・減少シナリオが造船市場に与える影響を評価するためのモデル、その最適なシナリオを探査するシステムを開発しました.開発したモデル・システムを用いて,様々なシミュレーションを実施し,船舶の建造能力が造船市場全体に及ぼす影響を総合的に分析すると同時に,その適切な調整シナリオに関して考察をしています。

(受賞者)
和田 祐次郎(海上技術安全研究所 知識・データシステム系)
濱田 邦裕(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)
平田 法隆(広島大学 大学院先進理工系科学研究科)



(中央)和田 祐次郎氏,(左)濱田 邦裕氏, (右)平田 法隆氏

3. 日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞)

受賞論文:Identification of ship motion performance of coupled heave and pitch using experimental irregular time-series data, Journal of Marine Science and Technology, Vol. 27, issue 2, June 2022.

(概要)
実海域における船舶の運動性能評価では、理論的なアプローチに加えて、計測データ解析によるものも重要です。しかし、計測データを用いた従来のスペクトル解析法等は、物理量として計測可能な波浪と船体運動の応答システムを同定するものであり、そのシステム内部の物理現象を周波数応答として評価できませんでした。
受賞論文では、メモリー影響を考慮した運動方程式に基づき自己組織化型状態空間モデルを実現し、不規則波と船体運動の時系列データを用いてモデルパラメータを同定する手法を開発しました。また不規則波中の動揺計測試験で取得したデータからパラメータを推定し、従来の規則波中試験結果との比較により、提案手法の妥当性を検証しました。本成果により、船体に働く流体力特性を明らかにしたうえで、波浪と船体運動の応答システムの同定が可能となり、信頼性の高い実海域における運動性能評価につながります。

(受賞者)
花木 孝明(海上技術安全研究所 流体設計系) (研究当時:大阪大学大学院 工学研究科)
共著者:箕浦 宗彦(大阪大学 大学院工学研究科)



(左)花木 孝明氏, (右)箕浦 宗彦氏

4. 日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞)

受賞論文:水圧計測による波浪中船体構造応答の推定手法 -第1報 縦曲げモーメントの推定-, 日本船舶海洋工学会論文集, 第35巻, 2022年6月.

(概要)
安全な船体の設計には、波浪中の船体構造応答の把握が重要です。近年は計算機性能の向上により、荷重解析(ストリップ法・パネル法など)と有限要素解析(Finite Element Analysis: FEA)を組み合わせた荷重構造一貫解析による波浪中構造応答の把握ができるようになってきました。このような数値解析技術の整備に伴い、精度検証のための実験がより重要になります。そこで、新しい検証技術として、水槽試験で計測された模型船表面の水圧から波浪中船体構造応答を推定する手法を提案・検証しました。
本手法では、(1)水槽試験で模型船表面の水圧をFiber Bragg Gratings(FBG)圧力センサで多点計測を行い、(2)自由表面位置を考慮してその水圧を補間することで模型船表面の水圧分布を求め、(3)得られた水圧分布を荷重としてFEAを実施することでローカルな応答も含んだ波浪中船体構造応答の推定が可能です。本手法の検証として、船殻のひずみを計測可能なアクリル製弾性模型船を用いた水槽試験を実施し、従来法であるひずみから得られる縦曲げモーメントと、本手法から得られる縦曲げモーメントの比較を行い、両者が良く一致する結果が得られ、本手法の妥当性が示されました。

(受賞者)
小森山 祐輔(海上技術安全研究所 構造・産業システム系)



 小森山 祐輔氏