ENVIRONMENTALLY-FRIENDLY ENGINE RESEARCH GROUP
環境エンジン研究グループでは、エンジンに関する物理現象の把握とエンジンの燃料消費率、有害排気物質低減を目指して、シミュレーションと可視化計測等による噴霧・燃焼現象の解析を行っています。
実験には主に急速圧縮装置を使用しています。この装置は、吸気の温度、圧力、成分(気体燃料予混合気、またはCO2、O2濃度)を制御でき、様々な雰囲気条件に対応できます。計測項目として、予混合燃焼、ディーゼル噴霧燃焼の可視化画像計測(シャドーグラフ、二色法、ラジカル分光計測など)と排気計測(NOx、O2、CO2、CO、すす、HC(炭化水素)など)、壁面熱流束計測を行えるのが特徴です。その他、低温場対応、旋回流形成可能な定容容器や燃料着火性試験装置FCA(Fuel Combustion Analyzer)も使用しています。
急速圧縮装置
定容燃焼器
(◎はグループ長)
昨今の温室効果ガスの削減要求に対して、軽油、重油に変わる様々な燃料が候補として挙げられています。その中で、エネルギー密度の高さ、既存インフラの適用が可能な液体燃料では既存燃料との混合に、舶用燃料としてエンジン開発が進められているガス燃料ではシリンダ内への燃料直接噴射方式に着目して、研究を実施しています。
ディーゼルエンジン(シリンダ内に燃料を直接噴射するタイプのエンジン)では、高温、高圧化したシリンダ内に液体燃料が噴射され、微粒化、蒸発した後に着火、燃焼することで燃料の化学エネルギーが動力に変換されます。つまり、使用する燃料の空気と燃料の混合とその後の着火が重要になります。しかし、使用する燃料によってその着火性は異なり、特に現在想定されている代替燃料は、これまでの石油系燃料以上に着火性の幅が広がっています。そのため、今後、どのような燃料が来ても対応できるように様々な燃料を対象として検討をすすめていきます。
Compound | Formula |
CN [-] |
Hl [MJ/L] |
|
---|---|---|---|---|
Liquid |
Methanol | CH3OH | 2 | 16.8 |
Ethanol | C2H5OH | 2 | 21.9 | |
Methyl oleate | C19H36O2 | 56 | 32.7 | |
Methyl palmitate | C17H34O2 | 74.3 | 29.5 | |
OME3 (tetraoxanonane) |
C5H12O4 | 78 | 19.5 | |
OME6 (heptaoxapentadecane) |
C8H18O7 | 104 | 19.8 | |
Diesel fuel | – | >45 | 36.7 | |
Gas |
Hydrogen (35MPa) | H2 | – | 3.8 |
Ammonia (35MPa) | NH3 | – | 11.8 |
OME3の体積分率と着火遅れ、セタン価の関係
(OME3とヘキサデカン、1-メチルナフタレン、エチルベンゼン混合)
燃料噴霧燃焼中のラジカル
(上段;C2ラジカル、下段;OHラジカル)
水素、アンモニア、天然ガスなどのガス燃料を予混合気(燃料と空気が予め混合された気体)にしてエンジン内に供給するとき、この予混合気中に微量の液体燃料を噴射して着火源とする着火方式があります。これはマイクロパイロット方式と呼ばれています。この方式は、ガソリンエンジンなどに用いられているスパーグプラグでの着火に比べて、液体燃料の微粒化・蒸発や、液体燃料と気体燃料の二種燃料混合気という要素が加えられて、より複雑な現象になり、未だにメカニズムが明確にはなっていません。微小噴射された燃料は、燃料噴射期間中に着火、燃焼するディーゼル噴霧燃焼とは異なり、噴射終了から着火までの間にシリンダ内を拡散、混合しながら移動しています。このため、微小燃料噴霧の挙動が重要になるので、噴射圧力、二段噴射などを用いながら燃料の着火性と着火過程との関連性についての検討を行っています。
パイロット燃料噴射圧力Pinjによる着火、火炎伝播の変化
(上段;Pinj=50MPa、中段;Pinj=90MPa、下段;Pinj=130MPa)
パイロット噴射の二段噴射間隔を変更したときの着火時期と位置の関係
ディーゼル、ガソリンエンジンのシリンダ内における三次元噴霧燃焼シミュレーションは、実用的な設計や予測に使用できるようになってきています。その中で燃料噴霧に関係する気液二相流の数値シミュレーションは、各現象(液滴の飛翔、液滴の分裂・合体、液滴の蒸発など)に様々なモデルが必要で、それぞれのモデルはどのような条件でも成立している訳ではなく、限定された条件の下でしか使用できません。そのため、実験との比較・検証が常に必要で、より適用範囲の広いモデルが求められています。
私たちはこれまで、SIP「革新的燃焼技術」(2014~2018年度)において、3DCFDソフト「HINOCA」の噴霧部分の開発・実装を分担担当してきました。2019年度からは、実験において燃料噴射を実施するたびに噴霧形状が異なる原因を解明し、これを再現するためのモデル提案と改良、壁面付着した燃料の再飛翔と低温場での噴霧挙動などの実験・モデリングを行っています。2023、2024年は、燃料の多様性に対応できる噴霧モデル検証、2025年からは、代替燃料が混合された燃料を対象に壁面付着燃料の蒸発予測を実施します。
この研究の一部は、エンジンメーカー様との共同研究により、大学、研究機関と協同で実施されています。
(噴霧モデルに関する詳細が書かれている書籍はこちら。)
一方、噴霧全体の空気導入量、混合気形成過程の予測は、和栗の運動量理論を初めとして、様々な手法が提案・検討されています。私たちは、Musculus および Kattke の1次元噴霧モデルを、燃料蒸発から着火時の噴霧内温度まで併せて検討できるように拡張し、代替燃料噴射時の噴霧内当量比、平均温度の噴霧軸方向の変化を調べています。
噴霧の物理モデルとイメージ
非蒸発燃料噴霧シミュレーション
蒸発噴霧シミュレーション(上図;液滴、下図;蒸発蒸気)
代替燃料蒸発噴霧の噴霧内温度、当量比分布
(Ta=773K, Pa=5MPa, Pinj=80MPa)