Research Overview
洋上での油ガス田開発及び生産時において、FPSO(※1)やFLNG(※2)からの生産物の出荷方法の一つにタンデム方式があります。タンデム方式では、シャトルタンカーの振れ回り運動から生じるホーサー張力の変動がオフローディングの稼働率に大きく影響します。シャトルタンカーの振れ回り運動をより正しく見積もることで、振れ回り運動を抑制するための運航計画策定やオフローディングの稼働率評価の一助となることができます。
オフローディング時の振れ回り運動は、FPSOやFLNGにシャトルタンカーが繋がれた状態で風・波・流れといった複合外力下において発生し、横流れが支配的となる低速状態で斜航角が大きくなる特徴があります。MMGモデル(※3)の表現に従うと運動方程式の外力は例えば次のように分離して考えられます。
$$
\begin{equation}
\left .
\begin{array}{lllllll}
X & = X_H & +X_P & +X_R & +X_A & +X_W & +X_T\\
Y & = Y_H && +Y_R & +Y_A & +Y_W & +Y_T\\
N & = N_H && +N_R & +N_A & +N_W & +N_T
\end{array}
\quad \right \}
\end{equation}
$$
ここで、$X$や$Y$、$N$はそれぞれ前進方向や横方向の外力、回頭モーメントで、添え字は、$H$:操縦流体力、$P$:プロペラ推力、$R$:舵力、$A$:風圧力、$W$:波漂流力、$T$:ホーサー張力を意味します。
操縦流体力に対する従来の推定式は通常航行を想定し構築されているため、そのまま利用することができません。海洋システム研究グループでは、模型試験により低速・大斜航時における操縦流体力の評価を行っています。
高品の論文(※4)に基づき、その場回頭試験や斜航試験、Yaw Rotating試験を実施して低速・大斜航時におけるデータを取得し、操縦流体力の評価を実施しています。模型試験では、海洋構造物試験水槽の曳引台車にあるターンテーブル架台に設置した曳航装置を介して模型船を拘束し(図1)、模型船を曳航することで(図2)、模型船が流体から受ける力を計測しています。
その場回頭試験では、船速$U$がゼロの状態で回頭させた時の流体力を計測し解析することで、$U=0$m/sでの回頭モーメントに関する操縦流体力を表現するための操縦微係数が得られます。斜航試験は、ある斜航角$\beta$を持って直進曳航させた時の流体力を計測・解析することで、$r=0$deg/sにおける各方向(前後、横、回頭)の操縦微係数を取得できます。Yaw Rotating試験は、一定回頭角速度$r$で回頭させつつ、一定速度$U$で曳航させた時の流体力を計測・解析することで、$U\ne0$m/sかつ$r\ne0$deg/sの状態における各方向の操縦微係数を求めることができます。そして、これらのデータを用いることで低速・大斜航時に適した表現式により操縦流体力を評価することができます。
本研究は国土交通省海事局から受託した「走錨リスク判定システムの確立のための調査事業」の一環として実施しました。関係各位に深く感謝申し上げます。