リスク解析研究グループ

RISK ANALYSIS TECHNOLOGY RESEARCH GROUP

リスク解析研究グループでは、船舶の安全性向上を目的として、幅広い分野においてリスク評価に関する研究を展開しています。






研究紹介

1. 液化ガス燃料船および運搬船の事故時の海上流出・拡散・火災影響度解析モデルの開発

海事セクターにおける温室効果ガス排出削減の取り組みとして、従来の燃料油に比べて二酸化炭素の排出量削減効果がある液化天然ガスの導入が進められています。将来的には、アンモニアや水素など、炭素を含まない燃料の利用も期待されています。一方で、これらの燃料は従来の油燃料とは大きく異なり、設備の故障や衝突などの事故で燃料が漏えいすると、急速に気化して大気中に拡散し、周囲を航行する船舶や着岸時の公衆に火災や爆発、あるいはアンモニアの急性毒性などの影響を及ぼす可能性があります。本研究グループでは、安全性評価に必要となる事故時の被害・影響評価モデルの検討および要素技術の開発を行っています。

(参考図)

LNGの海上漏えいに伴う大気拡散範囲の予測結果




2. 液化水素運搬船の漏洩リスク解析に関する研究

次世代エネルギーの一つである水素を大量かつ効率的に輸送する手段として液化水素運搬船の開発が活発に進められています。水素を扱う多くの設備の重要ハザードの一つとして「水素漏洩」が考えられ、そのリスクの低減が求められています。本研究グループでは、液化水素運搬船の漏洩リスク解析に必要となる解析対象シナリオの構築、頻度解析及び被害度解析のための研究を実施しています。

(参考図)

解析シナリオとして噴出火炎(Jet Fire)と爆発(Explosion)を対象としたEvent Treeの例.

機器別漏洩リスクの推定結果

(出典:柚井,他7名,リスク評価技術の高度化-自動運航船と新規貨物・燃料船のリスク評価-,海上技術安全研究所報告,第22巻別冊,pp.75-80.)




3. 海難データベースとAIS航跡データを用いた海域の安全確保に関する研究

日本国内では、多数の海難事故について詳細な調査が行われ、記録・蓄積されてきました。これを整理してデータベース化することで、事故の分類や共通原因の把握等、関連研究に役立てています。
また、近年、船舶へのAIS (船舶自動識別装置) 搭載が定着してきました。AIS航跡データを使用することで、海域の状況を詳細に把握することができます。これを活用して、特定の海域を航行する船舶がどのような行動をとっているか、集中箇所や危険な遭遇の発生しやすい箇所はどのようになっているかを把握したり、新施設の設置によって周辺交通に及ぼす影響を予測したりするための研究を行っています。

(参考図)

航路設置前
2017/3/1 - 3/31

推薦航路設置後
2018/1/1 - 1/31

推薦航路・経路指定設置後
2019/3/1 - 3/31

東京湾口沖における推薦航路・経路指定設置前後における周辺海域の船舶の遭遇頻度分布

(出典:R.Miyake & H.Itoh: Research on changes of traffic safety accompanying successive implementation of new traffic rules. In Advances in the Collision and Grounding of Ships and Offshore Structures ? Le Sourne & Guedes Soares (eds), 2024)