模型船の(見掛けの)抵抗を自由に操る
-補助推力装置の開発-

RESEARCH OVERVIEW

こんな研究やってます~やさしい解説~

 船は進むときに水から抵抗を受けます。この抵抗の大部分は水による摩擦抵抗です。たとえ水でも船の表面を流れると摩擦が起きるのです。摩擦抵抗は水の粘っこさ(粘性)で変わります。船が前進するためには抵抗に打ち勝つだけの前におしだす力(推力)をプロペラが出さなくてはなりません。これは海を走る実際の船(実船)でも真水の水槽を自由に走る模型船(自走模型船)でも同じです。

 自走模型船を使った実験は実船の性能を調べるためにおこないます。模型船の長さは3~4mくらいです。このとき自走模型船に起こる現象は実船に起こる現象を模型船の大きさで実現したものでなければなりません。これを模型船の現象を実船と相似(*1)にすると言います。

 ところが、模型船の抵抗は実船と相似にすることはできません。真水の粘性は海水とそれほど変わらないにもかかわらず模型船は実船よりはるかに小さいため、模型船は相対的に実船より粘っこい水の中を走ることになるからです。実際、長さ320mのタンカーの110分の1の模型船(長さ2.91m)の抵抗は相対的に実船の約2.6倍にも達します。このため、実船と相似になる速度(*2)を出すためには自走模型船のプロペラは相対的に実船より大きな推力を出さなくてはなりません。抵抗が相似でないとプロペラの作動状態も相似でなくなるのです。さらに、プロペラの作動状態が相似でないとプロペラのうしろにある舵の効き具合も相似ではなくなります。これでは実船のプロペラや舵の性能を自走模型船で調べることができません(*3)。

 海技研では補助的な推力を与えることで自走模型船の見掛けの抵抗を実船相似にする装置を開発しました。この補助推力装置はダクトファンを使った装置で模型船の後方に設置したダクトファンが吸い込んだ空気を高速で吹き出すことによって推力を発生します。実際の抵抗が変わるわけではありませんが、模型船の抵抗を見掛け上実船相似にする(*4)ことができます。こうすれば模型船のプロペラが出す推力を実船と相似にして自走模型船で実船のプロペラの性能を調べることができます。補助推力装置の使い方は模型船の見掛けの抵抗を実船相似にするだけではありません。補助推力は自由に設定できますから目的に応じて自走模型船の見掛けの抵抗や必要となるプロペラ推力を自由に操ることができます。

図1 ダクトファン型補助推力装置
長さ約3mのコンテナ船模型に搭載された状態です。ダクトファンが前から空気を吸い込んで後に高速で吹き出すことで模型船に補助推力を与えます。


図2 補助推力装置の構成
すべての構成要素を模型船上に搭載した場合の例です。制御PCは検力計で計測した補助推力が目標値に一致するようにダクトファンの回転数を制御します。模型船の速度によって目標値を変化させることもできます。


図3 ダクトファン回転数と補助推力の関係
青色の直線で表されるような取り扱いやすい特性を持っています。この特性を用いてダクトファンの回転数を制御します。


図4 補助推力装置を使って実海域再現水槽の中を走るコンテナ船の自走模型船


*1 ここでの相似は実船と模型船のフルード数を一致させることを指します。フルード数とは重力と慣性力の比を表す無次元の値です。

*2 フルード数を一致させたとき模型船の速度は実船の速度の平方根に等しくなります。たとえば模型船の長さが実船の長さの100分の1のときは模型船の速度を実船の速度の10分の1にします。

*3 実は粘性に関する現象を相似にする方法があります。この場合は実船と模型船でレイノルズ数を一致させます。レイノルズ数は粘性力と慣性力の比を表します。しかし、レイノルズ数を一致させようとすると、たとえば模型船の長さが実船の長さの100分の1のときは模型船の速度を実船の約96倍にしなくてはなりません。このような速度を実現することは事実上不可能です。

*4 これを「摩擦修正」と呼びます。自走模型船に摩擦修正をおこなうことはこれまでは非常に困難でした。

(2014.12.)