プレスリリース

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令和7年11月18日
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所

国際海運における燃料新規制の定量的評価モデルを開発 —規制の柔軟性が未来のコスト・船隊に与える影響とは—

 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所の和中真之介主任研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科稗方和夫教授、運輸総合研究所の竹内智仁主任研究員(研究当時)、谷口正信研究員(研究当時)らによる研究グループは、国際海運における温室効果ガス(GHG)排出削減を目的とした新規制「GHG Fuel Intensity (GFI)」規則の影響を定量的に評価する計算モデルを開発しました。
 提案段階にあるGFIを対象に、規制遵守に柔軟性を持たせるPoolingの影響を初めて包括的にモデル化し、その利点や懸念点を明らかにした先駆的な事例です。
 本研究の成果は、海運の脱炭素化を推進するための国際的な規制設計に直接的な知見を提供します。今後の国際海事機関(IMO)における国際的な規則の詳細な制度設計や規制値などの議論に貢献することが期待されます。

海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所の和中真之介主任研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科稗方和夫教授、運輸総合研究所の竹内智仁主任研究員(研究当時)、谷口正信研究員(研究当時)らによる研究グループは、国際海運において導入が検討されている温室効果ガス(GHG)削減規制GHG Fuel Intensity(GFI)規則(注1)が与える影響を評価する計算モデルを開発しました。

本研究では、特に規制遵守に柔軟性を持たせるPooling(注2)と呼ばれる仕組みに着目し、それが導入された場合とされなかった場合を比較することで、Poolingの利点と懸念点を明らかにしました。

提案段階にあるGFIを対象に、制度の柔軟性の有無を含めて包括的にモデル化した点で新規性があり、また、燃料価格や輸送需要の不確実性を組み込んだモンテカルロ・シミュレーション(注3)によって定性的な傾向の頑強性を検証した点に独自性があります。

本研究成果は、海運の脱炭素化を推進するための国際的な規制設計に直接的な知見を提供します。

シミュレーションを用いた国際海運脱炭素化規制の影響評価

国際海運の脱炭素化は、世界的に喫緊の課題となっています。本研究では、国際海事機(IMO)で議論が進むGHG Fuel Intensity(GFI)規則および、その制度遵守に一定の柔軟性を持たせるPoolingと呼ばれる仕組みに着目し、国際海運の将来に与える影響を定量的に評価しました。GFI規則は、燃料のライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を規制する仕組みであり、従来の燃費規制や運航効率規制に比べて、直接的にクリーンな燃料の普及を促すことが特徴です。その一方で、規制をどのように設計するかが大きな論点となります。

本研究では、船の建造、燃料選択、コスト計算を統合的に計算できるシミュレーションモデルを構築しました(図1)。さらに、従来の輸送需要や燃料価格の不確実性を考慮するため、モンテカルロ・シミュレーションを行い、制度への影響を分析しました。

図1:シミュレーションモデルの概念図

規制の影響を定量的に評価するため、船舶の建造・解撤、運航時の燃料選択、燃料消費量とコストの計算の3段階をモデル化し、繰り返し計算によって将来の船隊構成とコストを計算します。

結果として、GFIへのPoolingの導入は短期的な規制遵守コストを低減しうることが示されました。これは、個々の船舶単位ではなく、船隊全体として柔軟に燃料を選択できるようになるため、運航者がよりコスト最適な燃料を利用できることによるものです。また、将来の不確実性に起因するコストのばらつきも抑制され、短期的な規制対応の安定性向上にも寄与することが確認されました。一方で、長期的にはPoolingによって従来燃料船の退場が遅れることで、最終的にバイオディーゼル等の利用が不可欠となり、バイオ燃料の価格が高価になった場合は、コストが逆に上昇する可能性があることも示されました(図2)。制度に柔軟性を持たせると同時に、従来船舶の入れ替えを促進する仕組みを持つことが重要と言えます。

図2:Poolingの有無によるシミュレーション結果の比較

2030年、2040年、2050年における総コスト(USD)をPoolingの有(flexible)と無(rigid)によって比較しました。箱ひげ図により中央値とデータのバラつきを表現しています。

本研究は、提案段階にあるGFIの影響とその制度の柔軟性の有無による違いを定量的に評価した初めての成果であり、国際海運の規制設計に対して重要な示唆を与えるものです。今後のIMOにおける国際的な規則の詳細な制度設計や規制値などの議論に貢献することが期待されます。


〇関連情報:

海上技術安全研究所 知識・データシステム系 知識システム研究グループ
https://www.nmri.go.jp/study/research_organization/data_system/group6_1.html
海上技術安全研究所 GHG削減プロジェクトチーム
https://www.nmri.go.jp/study/research_organization/ghg/
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 稗方研究室
https://is.edu.k.u-tokyo.ac.jp/
「海運分野におけるCO2排出削減に関する研究」(運輸総合研究所)
https://www.jttri.or.jp/research/port/2020theme05.html

〇発表者・研究者等情報:

国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所
知識・データシステム系 知識システム研究グループ
和中 真之介 主任研究員

国立大学法人東京大学
大学院新領域創成科学研究科 人間環境学専攻
稗方 和夫 教授

一般財団法人運輸総合研究所
竹内 智仁 主任研究員(研究当時)
谷口 正信 研究員(研究当時)

〇論文情報:

雑誌名 : Transportation Research Part D: Transport and Environment
題名 : Model-based Assessment of Marine Fuel GHG Intensity Regulation with Flexible Compliance Mechanism
著者名 : Shinnosuke Wanaka*, Kazuo Hiekata, Tomohito Takeuchi, Masanobu Taniguchi
DOI : 10.1016/j.trd.2025.105102
URL : https://doi.org/10.1016/j.trd.2025.105102

〇研究助成:

本研究は、科研費「国際海運における脱炭素化に向けたGHG排出量規制設計に関する研究(課題番号:JPS24K17460)」の支援により実施されました。また、本研究は日本財団からの助成を受けて運輸総合研究所が実施した研究委員会「海運CO2排出削減のための燃料転換に関する調査検討委員会」の成果を活用しています。

〇用語解説:

  1. GHG Fuel Intensity(GFI)規則:舶用燃料に含まれる単位エネルギーあたりの温室効果ガス排出強度(g-CO2/MJ)に関する規制。
  2. Pooling:船舶ごとに規制値を達成するのではなく、複数船をグループ化して、全体の平均値で規制値を満たすことを許容する制度。制度遵守に一定の柔軟性を認める柔軟性措置の1つとして検討が進められている。
  3. モンテカルロ・シミュレーション:乱数を用いてさまざまなシナリオを生成し、不確実性を伴うシステムやプロセスの将来の結果の分布やその発生確率をシミュレーションする手法。

<問い合わせ先>
国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
海上技術安全研究所 企画部広報係
Tel:0422-41-3005 Fax:0422-41-3258
E-mail:info2@m.mpat.go.jp
URL:https://www.nmri.go.jp/

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