船体に働く波浪による定常流体力計算プログラム

COMPUTATION PROGRAM TO ESTIMATE WAVE-INDUCED STEADY FORCES AND MOMENT ON A SHIP

海難事故解析に有用なプログラム

 本計算プログラムは、波の中(波浪中)での操縦性能に関係する船舶の海難事故、例えば荒天時の漂流や避航操船の解析・シミュレーションに有用です。

図1 波浪による定常流体力およびそれが船舶の操縦運動に与える影響についての模式図

 波浪中を航行する船舶は、船体が波の山谷に合わせて周期的に動揺したり船体に向かう波(入射波)を反射・回折したりすることで、非定常な波を新たに造ります。そのため、船体に働く非定常な波力は非線形性を有することとなり、結果として時間平均的な定常成分が発生し得ます(図1参照)。この定常成分は、船体を周期的に動揺させる力と比べて小さいものの、時間平均的な船速の低下や船体の斜航・針路保持に必要な当て舵の増加を誘起する他、積分値として船の位置や方位などに影響を与えます。従って、実際の海での船舶の推進・操縦性能を評価する際には、船体に働く前後・左右方向の波浪による定常流体力および鉛直軸回りの定常回頭モーメントを考慮する必要があります。本計算プログラムは、そのような波浪による定常流体力を、理論的かつ実用的に推定するプログラムです。現在、この定常流体力の影響を考慮した波浪中操縦運動および船体動揺の計算法の開発を進めています。

特徴

  • 計算には、船体の主要目・水線面形状(喫水線を含む水平面で船体を切った時の断面形状)・表面形状情報(オフセット表)が入力データとして必要です。
  • 規則波(波の山谷が規則的に繰り返される基本的な波)中における船体前後・左右方向の定常流体力・鉛直軸回りの定常回頭モーメント、ならびに前後方向の並進運動を除く5自由度(左右・鉛直方向の並進運動 + 前後・左右・鉛直方向軸回りの回転運動)の船体動揺を計算結果として出力します。
  • 極短波長(波の山と山あるいは谷と谷の間隔が短い波)から長波長までの幅広い波長域において、向波・横波・追波といった任意の波向きでの計算が可能です。
  • 船体の前進速度の影響を考慮します。また、短波長域では船体の斜航による影響も考慮するため、より実際の操船状態に近い船体の条件下での計算が可能です(図2参照)。
  • 非粘性・非圧縮・非回転の流体を仮定したポテンシャル理論に基づく異なる2つの計算法を実用的に統合した手法[1]を用いています。
  • 水槽試験によって、計算法の妥当性が検証されています(図3, 4参照)。

図2 船体の停止・直進・斜航状態の模式図

水槽試験による妥当性検証(例)

図3 停止/直進する大型タンカーに働く波浪による定常流体力(斜向波60度)[1]

図4 短波長波域(波長船長比0.4)を斜航する大型タンカーに働く波浪による定常流体横力[2]


図5 規則波中(波長船長比0.5)を旋回するコンテナ船の航跡と波浪動揺の時系列(改良中)

関連文献

  1. Suzuki, R. (2024) : A Practical Method of Predicting the Wave-induced Steady Forces and Yaw Moment Acting on a Ship Advancing in Oblique Waves, Proc. of 34th Int. Ocean & Polar Eng. Conf., Rhodes, Greece, ISOPE, pp.2248-2255
  2. Suzuki, R., Ohashi, K., & Ueno M. (2023): Estimation of Steady Wave Forces and Moment Acting on an Obliquely Moving Ship in Short Waves, and Its Application in a Manoeuvring Simulation, Appl. Math. Model., Vol.125, Part A, pp.261-292.

関連ページ

流体性能評価系/ 耐航性能研究グループ
https://www.nmri.go.jp/study/research_organization/fluid_performance/group2_3.html