耐航性能研究グループ

SEAKEEPING PERFORMANCE RESEARCH GROUP

耐航性能研究グループでは波の中での船の運動に関する研究を軸に、船舶の転覆・沈没にいたる危険事象の解析や、波浪中での船体運動の推定、損傷時の浸水及び運動推定、船舶の曳航に関する研究を行っています。これらの研究に伴う実験として実海域再現水槽や中水槽での拘束模型試験、自由航走試験などから実船の実海域試験に至るまで様々な試験を実施しています。実験と並行して数値計算による推定法の開発も行っており、実験と数値計算の両面から船舶の事故防止に向けた取り組みを行っています。


メンバー

◎はグループ長


研究紹介

復原性に起因する船舶の危険事象に関する研究

国際海事機関(IMO)で動的復原性による危険事象5モード(デッドシップ状態、過大加速度、復原力喪失、パラメトリック横揺れ、波乗り/ブローチング)を評価する非損傷時復原性基準暫定ガイドラインが2020年に承認されました。当グループではこれまでに過大加速度モードについて調査研究を行い、ガイドラインの策定に貢献しました。現在はこのような危険事象を評価するために不規則波中での復原力変動を考慮した非線形船体運動を時間領域で計算するコード開発とその危険事象を再現する水槽試験技術を確立し、試験水槽で裏付けされた計算ツールの構築を目指します。水槽試験技術の1つとして試験水槽で生成する波浪場の再現精度を高めるための研究も行っています。波は発生源から円筒状に伝わっていく性質があり、波高・波長・波向が単一の規則波であっても空間的に波高が均一となるように発生させることは難しいため、造波機の個別の動揺振幅を最適化することで空間的に波高が均一となる規則波を発生させる技術の開発を進めています。また、当グループは復原性規則の解説や模型船を使った復原性試験の実習、復原性が原因で発生した転覆事故解析事例の解説などを行う復原性研修を行っています。



船体に働く波浪による定常流体力に関する研究

波浪中を航行する船舶は、船体が周期的に動揺したり入射波を反射・回折したりすることで、非定常な波を新たに造波します。そのため、船体に働く非定常な波力は非線形性を有することとなり、結果として時間平均的な定常成分が発生し得ます。この定常成分は、高次の力ではあるものの、時間平均的な船速の低下や船体の横流れ(斜航)・針路保持に必要な当て舵の増加を誘起する他、積分値として船の位置や方位などに影響を与えます。従って、実海域での船の推進・操縦性能を評価する際には、前後・左右・回頭方向の波浪による定常流体力を考慮する必要があります。当グループでは、そのような波浪による定常流体力を、船が前進速度や横流れ速度・旋回角速度を有する場合においても、理論的かつ実用的に推定可能とするための計算法の開発を進めています。また、この定常流体力の影響を考慮した波浪中操縦運動および船体動揺の6自由度船体運動計算法の開発を進めています。


船舶の曳航に関する研究

航行不能船舶の曳航計画を立てる時には現場の海象条件、被曳船に働く力、曳航する船の曳航能力及び曳航資機材の強度等を考慮して総合的に考える必要があります。これまでの研究成果をまとめて開発した最適曳航支援システム(Optimum Towing Support System)は波・風・潮流下での船舶の曳航状態の計算プログラムであり、与えられた海象下で航行不能船舶を曳航する際の曳船の速度や曳航方向、曳航索長さを系統的に変化させて曳航状態を計算し、最適な曳航条件を検討することができます。より実際の曳航に近い状態を扱えるよう、さらに精度を高めるよう研究を進めています。


研究課題

重点研究及び基盤研究

  • 1)波浪中復原性に起因する船舶の危険事象を再現する技術開発と基準に関する研究(重点2、小項目3、2023-2029)
  • 2)港内操縦運動再現のための操縦運動数学モデルに関する研究(重点2、小項目1、2023-2029)
  • 3)操船自動化及び操船支援の高度化に関する研究, 外乱中の船舶操縦運動の実用的計算手法に関する研究 (重点4、 小項目3、 2023-2029)
  • 4)マリンオペレーション技術の最適化と高度化手法の確立に関する研究(重点7、小項目1、2023-2029)

科学研究費助成事業

  • 1)定常波力の船体横流れ影響と長周期変動を考慮した荒天下の船舶操縦運動計算法の開発(科研基盤C、2024-2026)
  • 2)波浪中船体極値応答に対する波群の発達および波の多方向性の影響(分担)(科研基盤B、2024-2026)
  • 3)複数の材質で構成する曳索に働く動的索張力を考慮した船舶曳航計算法(科研基盤C、2021-2024)

※ これまでの研究課題と成果に関する詳細情報は こちら