POWER AND ENERGY SYSTEM RESEARCH AND DEVELOPMENT GROUP
動力システム研究グループでは、地球温暖化防止・船舶の省エネルギー化を目指して、代替燃料(バイオ燃料、水素、アンモニア等)の利用技術に関する研究開発を行っています。さらに、プラズマを用いた燃料改質や触媒による排ガス浄化に関する研究開発を行っています。
バイオ燃料は植物・食品廃棄物などから製造される燃料で、燃焼時の二酸化炭素(CO2)の排出がゼロと考えられている燃料です※。これまでに、廃食油、パーム油、菜種油のバイオ燃料(粗バイオ燃料、FAME)により舶用4ストロークディーゼル機関を運転し、バイオ燃料の燃焼性や使用上の課題などを明らかにしてきました。粗バイオ燃料は蒸発特性が悪く、低負荷運転時に燃焼が悪化するが、燃焼改善にプレ噴射が有効であることなどを明らかにしました。さらに、燃料に模擬バイオガス(都市ガスとCO2から作製)とバイオ燃料(パーム油FAME)を用いた混焼実験を行い、バイオガスの割合を増やすにつれ、NOxとスモークの同時低減が可能であることを明らかにしました。
※原料となる植物は成長時にCO2を吸収します。この吸収したCO2によって、バイオ燃料の燃焼時に排出されるCO2が相殺されるため。
実験に使用した燃料
水素は、燃焼時にCO2を排出しない燃料であり、船舶への利用が期待されています。そこで、舶用ガスエンジンの燃料に水素を使用する技術の研究・開発を進めています。水素は、容易に着火し、その後も高速で燃焼する特徴があります。そのため、水素を燃料とするためには、エンジン内の燃焼において、この水素の激しい燃焼特性を適切にコントロールして、安定かつ安全な運転を実現することが必要です。研究では、発電出力400 ㎾の天然ガスを燃料とする火花点火エンジンを、海技研が独自に開発した水素噴射システムをレトロフィットして水素燃焼実験を進めています。これまでの、水素専焼に近い条件の実験から、適切な調整によって、安定燃焼、クリーンな排ガス、高い熱効率などを実証しています。さらなる水素の燃焼を抑制する技術として、排ガスを吸入空気に混合して燃焼するEGR技術や水噴射技術などの研究も進めています。
研究で使用しているエンジンと水素供給設備
アンモニア(NH3)は、水素と同様に炭素を含まないので燃焼してもCO2を発生しない燃料です。水素に比べて容易に液化することができ、単位体積当たりの発熱量は、液化水素の約1.6倍と、燃料として積載性が優れています。この様な観点から、船舶の代替燃料として注目が集まっています。動力システムグループでは、ディーゼルエンジンを利用してアンモニアと軽油を混焼させることでアンモニアを燃焼させて、アンモニア燃料利用のための基礎的な実験を実施してきました。実験では、アンモニアが未燃のまま排出されることや温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)が排出されることを明らかにし、それらの低減方法を研究開発してきました。
今後は、アンモニアと軽油の混焼状態の詳細な解析や水素を利用した燃焼システムを開発し、アンモニアを安全に効率良く燃焼させるための研究を実施します。
アンモニアと軽油の混焼システム
温室効果ガス(GHG)削減率評価例
プラズマとは、固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態であり、気体を構成する分子が電離し陽イオン(正電荷)と電子または陰イオン(負電荷)に分かれて運動している全体として電気的に中性な電離した気体であり、近年、ガス燃焼支援やガス改質へのプラズマの利用が注目されています。そこで、プラズマリアクターの1つであるマイクロ波プラズマリアクターを開発すると共に、ガス燃焼支援やガス改質に対する性能検証実験を行っています。現在、開発したマイクロ波プラズマリアクターを用いて、アルゴン、窒素、空気、メタン、アンモニア等がプラズマ化できることを確認しており、その性能や特性の調査を進めています。
エンジンは燃料を燃焼させた後のガス(排ガス)を排出しています。排ガスには、温室効果ガスや環境負荷物質が含まれます。それらを浄化するために触媒が利用されています。マイクロリアクター(小型流通式反応器)と呼ばれる装置を用いて、触媒の開発・性能評価を実施しています。この装置では、ボンベガスを用いて排ガスを再現し、任意の温度やガス組成で触媒の性能を試験することができます。触媒は実際に使用する触媒から切り出した小型の物を使用し、触媒の入口と出口のガス組成を排ガス分析器によって分析することで、性能評価を行っています。さらに、排ガス中の水分を再現するために、蒸発器を備えており、精製水を蒸発器に供給することで、排ガス中の水分濃度についても再現することが可能です。
マイクロリアクター(小型流通式反応器)