流体制御研究グループ

FLUID CONTROL RESEARCH GROUP

環境に優しく省エネルギーな船舶を開発するために必要不可欠な数値流体力学(CFD)利用技術と水槽試験技術の高度化のための研究・開発、およびそれらの研究成果を反映させた船舶設計基盤ツールの開発を行っています。さらに、基礎的な研究・開発成果を適用・発展させて、お客様(船主様、造船所様など)のニーズに合わせ、より製品に密着した船型・プロペラ・省エネデバイスの開発や新たな省エネルギーコンセプトの具現化を共同研究や請負研究として行っています。

流体制御研究グループロゴマーク







Roman,
Vision,
Mission

Roman

  • 海洋は、未知との遭遇の場。21世紀のフロンティア



Vision

  • 世界が賞賛する海事流体制御に関する技術者集団となる
  • 日本海事産業の国際競争力強化に貢献する



Mission

  • GHGゼロエミッション船の開発
  • 空気潤滑システムの高度化、および摩擦抵抗低減メカニズムの解明とその原理に基づく新たな省エネルギーコンセプトの創出
  • 推進性能向上のための船尾省エネデバイスの高度化
  • 船舶からの水中放射騒音予測技術及び低騒音・高効率プロペラの開発
  • 船体・プロペラ周りの干渉流場、およびキャビテーションの光学的計測技術の開発




研究紹介

1. 摩擦抵抗低減手法および評価手法の開発

排水量型船舶において摩擦抵抗成分は全抵抗の約6~8割を占めます。そのため、摩擦抵抗の低減により高い省エネ効果が期待できます。 当グループでは、船底を気泡流で覆い摩擦抵抗を低減させる空気潤滑法の研究や、船体塗膜面や汚損による摩擦抵抗増加の評価手法の開発を行っています。

36m長尺模型による実船レイノルズ数における高度空気潤滑法の評価(曳航速度8m/s)

14m長尺平板模型による塗装粗面の摩擦抵抗評価(曳航速度4m/s)




2.省エネ設計技術

海事業界では世界的な地球温暖化問題に対応するためエネルギー効率設計指標(EEDI)による規制が2013年から始まり環境負荷の少ない船舶の技術開発が喫緊の課題となっています。 流体制御研究グループでは数値流体力学(CFD)による船体周り流れの詳細解析手法、3Dプリンタによる高効率な水槽試験手法を応用し、環境に優しい“船のカタチ”と“省エネ付加物”の開発に取り組んでいます。


EEDI認証試験(ISO9001取得)(左)、実船搭載されたWAD(右)


開発した“船のカタチ”と“省エネ付加物”は実際に造船所に採用されて実際の海で活躍しています。


従来船と比較しCO2排出量を16%以上削減できる省エネ船型を採用した実船




3.舶用プロペラキャビテーション

近年、船舶の低振動化及び低騒音化の要求が高まっており、エンジンと共に船体振動の主原因となるプロペラによる変動圧力を高精度に推定可能な技術が必要とされています。その変動圧力を高精度に推定には、プロペラに発生する非定常キャビテーションのキャビティ体積の2次の時間変化分を精度良く計算することが重要です。しかしながら、現在の理論予測法の精度は充分ではなく、更なる精度向上のためにはキャビティ形状(体積)の計測結果を用いた理論予測法の検証が不可欠です。 当グループでは、水中において高速かつ高精度で形状計測が可能な組合せラインCCD法を用いた三次元形状計測装置を製作し、本装置を用いて模型プロペラに発生するキャビテーション形状の計測技術の開発を行っております。本装置によって従来計測が困難だったキャビティ形状を高精度かつ高解像度で計測することが可能です。 また、本計測法によって得られる高精度なキャビティ形状計測データは、キャビテーションを伴うプロペラにより誘起される変動圧力の推定やキャビティ体積の理論的推定法に対する検証データとして大きく寄与することが期待できます。


組合わせラインCCD法 試験風景

組合わせラインCCD法による計測結果




4. AI技術を応用した新しい船型設計手法の開発

船の設計をさらに高度化・効率化するため船型データベースの構築とAI技術を活用した新しい船型設計手法の開発に取り組んでいます。

AI技術を船舶設計に応用するためには複雑な3次元の船体表面形状をAIで解析できるようにするための船型表現手法が必要です。流体制御研究グループでは、画像認識の技術を船型設計に応用することを目的に独自のICSR(Image-based Curved Surface Representation)表現法を考案し、船型設計へのAI技術の応用を進めています。

船型データベースの構築のAI技術を船舶設計に応用するための鍵となります。流体制御研究グループではパラメータ化が難しい優秀船型の遺伝子を残しながら、新たな船型を自動的に生成することが出来る船型ブレンディング手法を活用し船型データベースの整備を進めています。

船型開発はこれまで熟練技術者の経験をベースに開発されておりその技術伝承が課題となっています。流体制御研究グループでは船型データベースを上手に可視化することにより、これまで熟練技術者の暗黙知となっていた船型と船尾流場の関係性などを形式化する研究を進めています。

AI技術を応用した新しい船型設計法の実用例として伴流設計システムによる省エネ付加物最適船型の開発があります。この例ではこれまで熟練技術者の試行錯誤で行われていた船型と省エネ付加物の干渉を踏まえた船尾形状の最適設計について、省エネ付加物に最適な流場を作る船型を伴流設計システムが自動的にデータベースから導いています。水槽試験での検証の結果、システムから出力された船型が実際に省エネ付加物の効果が高く、初期船型より2.2%省エネ効果が向上することが確認されました。


データベースを解析するシステムとして造船所・船会社に実際に使用して頂いているシステムとして船型要目最適化プログラムHOPE Lightがあります。HOPE Lightは海技研で過去に行った水槽試験のデータベースを基に船舶の主要目からその船の推進性能を評価することが出来るプログラムで船型の初期検討などで実用的に使用されています。  



HOPE Lightの出力/解析例




5. 流場計測手法の開発

気液二相流や実船まわりの高レイノルズ数流れのような複雑な流体現象を解明するために、レーザなどの可視化技術を応用した高度な流場計測技術を開発しています。

PTV(Particle Tracking Velocimetry)-Shadowgraphyによる気液二相流流場計測(白い影が気泡)

FBG(Fiber Bragg Gating)センサによる波浪中の船尾圧力分布計測

Stereo PIV(Particle Image Velocimetry)による模型船船尾まわりの流場計測

PIVとFBGセンサによる模型船まわりの流場及び船体圧力分布計測結果

実船船尾ダクトまわりのPIV計測(KED Photonics(ドイツ)と共同で実施)