荷重・構造研究グループ

STRUCTURE AND LOAD RESEARCH GROUP

 当グループでは、船舶の構造安全性評価に必要な解析技術に関する研究や全船荷重構造一貫解析システムの開発等を行っています。
 有限要素解析(FEM)を中心に、スラミングやスロッシング等の非線形荷重を含む波浪荷重予測プログラム及び流体-構造連成解析法の研究開発を行なうとともに、解析プログラムの精度を検証するための水槽実験及び構造模型実験を行ない、最先端の実験技術を蓄積しています。最近では、解析技術を利用して安全運航支援等を図るための船体デジタルツインに関する研究に取り組んでいます。 研究の成果は、合理的な基準や船級規則に反映されています。



メンバー

(◎はグループ長)




研究紹介

1. 全船荷重・構造一貫強度評価システムDLSAの開発

 最先端の荷重・構造解析手法を取り入れた全船荷重・構造一貫強度評価(Direct Load and Structural Analysis:DLSA)システムを開発しています。DLSAでは、一貫解析における過程に多階層のモジュールを用意し、海象条件及び各モジュールを組み合わせることで、目的の強度評価に応じた4種類の解析・評価手順「DLSA-Basic」、「DLSA-Basic W」、「DLSA-Professional」及び「DLSA-Ultimate」を提示しています。これらの機能は、一貫解析の入力となる海象の特定も可能です。また、DLSAの開発と同時に、ソフトウェアが設計現場で簡便に使用できるようGUI(グラフィック・ユーザー・インターフェイス)の開発と普及も行っています。


<DLSA-Basic>

 DLSA-Basicは、線形理論を基礎とした最も基本的な機能を備えたシステムで、高速かつロバストな全船荷重・構造一貫解析が実行可能です。荷重は線形ストリップ法「NMRIW-Lite」及び線形3次元Green関数法「NMRIW3D-Lite」から選択することができます。また、荷重または降伏・座屈強度の短期・長期予測による評価に基づいて、最悪海象を特定することも可能です。


―関連論文―

  松井貞興ら、船体構造設計のための全船荷重構造解析ならびに強度評価システムDLSA-Basicの開発、海上技術安全研究所報告、2019、Vol.19、No.3、pp.373-393.



<DLSA-Basic W>

 DLSA-Basic Wは、DLSA-Basicが特定した最悪海象下の応答をターゲットとした、非線形理論を基礎とした簡易解析システムです。運動・荷重解析では、スラミングや海水打ち込みなどの非線形現象を考慮することができます。また、構造強度評価だけでなく、非線形梁を組み込んだモデルによる極限海象の特定も可能です。


<DLSA-Professional>

 DLSA-Professionalは、最終強度評価及び残存強度評価をターゲットとしたシステムです。最終強度は従来、流体解析とは切り離されて評価されてきたため、荷重解析と連成させる本システムは実現象との溝を埋めるための手法を提示するものです。また、最終強度評価の結果から、極限海象を特定する役割も担っています。



<DLSA-Ultimate>

 DLSA-Ultimateは、流体・構造双方で最先端の技術を駆使した先進的なシステムです。運動・荷重解析及び構造解析の出力データを交互に受け渡す弱連成解析を実行する全船荷重・構造一貫強度評価システムとして開発しています。荷重ツールに当研究所開発のCFDコード(NAGISA)を据えた、CFD-FEA連成解析を行うことができます。





2. NMRIW-II(波浪中運動・荷重解析プログラム)の開発

 波浪中の運動・荷重解析ツールとして、NMRIW-IIを新たに開発しました。NMRIW-II(Nonlinear Motion in Regular & Irregular Wave-Integrated Intelligence)は非線形ストリップ法に基づいており、様々な波条件下におけるスラミング・ホイッピングを含めた非線形船体応答を解析することができます。それにより求めた荷重は、DLSAのインターフェース上でシームレスに構造解析へと受け渡すことが可能です。


―関連論文―

  ・松井貞興ら、構造設計のための非線形波浪荷重解析プログラムNMRIW-Ⅱ、海上技術安全研究所報告、2018、Vol.17、No.3、pp.247-293.
  ・松井貞興ら、実験との比較による非線形波浪荷重解析プログラムNMRIW-Ⅱの適用性の検証-規則波中船体応答-、海上技術安全研究所報告、2018、Vol.17、No.3、pp.297-380.





3. 日本海事協会との連携

 当グループでは、鋼船の規則開発及び検査を行う機関である日本海事協会との連携のもと、規則やガイドライン等の開発・改正に資する研究を行っています。


<波浪荷重の規則算式の開発>

 船体構造強度の安全性を評価するためには、波浪による荷重を正しく推定する必要があります。当グループでは上述したNMRIW-Lite, NMRIW3D-Lite, NMRIW-IIといった荷重解析ツールを開発しているため、これらを用いて合理的に波浪荷重を推定することができますが、船級規則では解析ツールに依らない規則算式による推定が求められます。そこで、荷重解析ツールを作成する中で培われたノウハウを生かし、簡便かつ合理的に波浪荷重を推定できるような簡易算式を開発する研究を進めています。


<現行規則における船体構造強度評価手法の妥当性検証>

 船体構造設計では、航行中に船体が受ける多種多様な波浪荷重を考慮し、必要十分な強度を持たせるようにすることが必要です。現行の鋼船規則やガイドラインでは、強度評価プロセスの簡便化のため、数種類の代表的な波浪荷重に対する応答をもとに、船の就航期間中に生じる応力の最大値を評価する方法が規定されています。
 しかし、近年、船舶の大型化や新船型の船舶の登場により、船舶の形状や寸法は現行規則の制定時と比べて大きく変化しています。そこで、当グループでは、DLSAシステムを活用して、あらゆる波浪の遭遇を考慮した、より厳密性の高い解析を実施し、現行規則ベースの解析結果と比較することにより、規則やガイドラインの改正に資する提言を行っています。


―関連論文―

  松井貞興ら、船体構造設計のための全船荷重構造解析ならびに強度評価システムDLSA-Basicの開発、海上技術安全研究所報告、2019、Vol.19、No.3、pp.373-393.





4. 船体構造デジタルツインの開発

 航行中の船体に生じるひずみ、加速度等のセンサ計測値を元に、船体の状態をコンピュータ上の構造モデルに忠実に再現して、即時・短期・長期の船体健全性を推論・評価する「船体構造デジタルツイン」の研究開発に取り組んでいます。船体の状態を知る技術として船体構造モニタリングの研究開発が進んでいますが、実海域での船体が出会う波や作用する外力を直接計測できないこと、また、主に費用の面で歪センサの数に制約があることから、必要最低限の情報を元に全船の応力等状態量を推定する技術開発が期待されています。このニーズに応えるため、当研究所で開発した全船直接荷重構造解析プログラム(DLSA;Direct Loads and Structure Analysis)を利用して就航後の状態量を推定する技術開発を行なっています。



船体構造デジタルツイン


サイバー空間(数値シミュレーション)


フィジカル空間(実験)




5. スロッシングに関する研究

 波浪荷重試験装置に併設されているスロッシング試験装置及び大型動揺試験装置を用いて、スロッシングに対する安全性評価を行っています。写真は、MOSS型(独立TypeB型)LNGタンクの強制動揺試験の様子です。この実験では、動揺方向に発生する1次共振流れのスロッシングと、スロッシングからモード推移して起こる水平回転流れのスワリングを再現しました。また、このような激しい流れに対してタンクの強度が十分であるかどうかを確認するための有限要素構造解析を行っています。さらに、粒子法を用いてタンク内流れのシミュレーションを行なっています。



MOSS型LNGタンクの動揺実験




6. 面内剪断を受ける連続防撓パネルの最終強度に関する研究

 船舶はその構造の大部分が板と梁(防撓材)を組み合わせた連続防撓パネルで構成されており、連続防撓パネルの最終強度は船舶の安全にとって重要な項目になります。 VLCC等の縦通隔壁の連続防撓パネルには、船体縦曲げによる面内圧縮応力に加えて、相対的に大きな面内剪断応力が生じますが、面内剪断が支配的な連続防撓パネルとしての最終強度は未解明です。この研究では面内剪断を考慮した連続防撓パネルの最終強度評価法の開発と、検証のための座屈・崩壊試験を行っています。
 剪断及び圧縮荷重を受ける防撓パネルの座屈崩壊挙動は十分に解明されておらず、その合理的な評価法は確立していません。本研究ではVLCCの縦通隔壁を想定した防撓パネル試験体を対象に座屈試験を実施し、面内剪断及び圧縮を受ける連続防撓パネルの座屈崩壊を再現しました。また、周期境界条件(PBC)を使用した、連続防撓パネルの簡易的なFEM解析法を提案しました。


FEM解析結果



模型実験動画




7. コンテナ船のスラミング及びホイッピングに関する研究

 船がその推進力で波を砕く、あるいは、波に翻弄されて水面に打ち付けられることによって、スラミングが発生します。安全でかつ経済的な船を設計するには、スラミングによる衝撃荷重を精度よく推定することが重要になります。解析グループでは、CFD(数値流体力学、Computational Fluid Dynamics)とFEM(有限要素法、Finite Element Method)を用いてコンテナ船のスラミング衝撃荷重を解析的に求めるための研究を行っています。図4.1は、船首部の評価点について、CFDで衝撃荷重を予測した結果と実験値との比較です。衝撃によるピーク水圧が精度よく推定できていることが分かります。また、CFDとFEMを組み合わることで、スラミングによる船体の弾性振動(ホイッピング)の予測を可能にしています。図4.2は船体中央断面における縦曲げモーメントの実験値との比較です。この研究を応用すると、船尾部や海水打ち込みによる上部構造物への衝撃荷重の推定や、より厳密な船体最終強度評価、さらに双同船のウェットデッキスラミングの予測等も実現し、船舶の革新的な設計に寄与します。


図1 CFDによる波浪荷重シミュレーション


CFDによる衝撃荷重の検証結果



スラミングによる船体弾性振動(ホイッピング)の検証結果